「おーいっ…あなた姉ちゃん?」
「…へっ!?」
ハッとすると目の前に不機嫌そうな顔をした歩夢が立っていた。
「もう、さっきから呼んでるのにーっ」
「あっ、ごめんごめん…」
初めて家族で食事した時のことを思い出してぼーっとしちゃってた…。
そういえば、私はチョコ作りの最中で…
勇我がつまみ食いしに来て、またどこかに行ったんだった…。
「どうしたの?」
私が聞くと、はぁ、とため息をついて歩夢が言った。
「これ食べていいやつ?」
これ、と私の作ったチョコを指さしながら。
「あ、うんっ、いいよ〜
でも、甘すぎたかな?
勇我に言われちゃって…。」
友達の湊は甘党。
だからミルクたっぷりのチョコレート。
さすがにちょっと甘すぎかな…?
「ううん、美味しい!」
歩夢が食べて笑顔を見せる。
よかった!!
もっと食べていい?って言いながらチョコをひとつ取って口に運ぶ。
そんなに気に入ってくれてよかったよ〜。
よし、バレンタイン、歩夢にはこの甘さで作ろう!
「勇我兄ちゃんさぁ、甘いもの苦手で…
苦いチョコの方が好きだからそーやって言ったんじゃない?」
「あ、そうなんだっ」
知らなかった…。
いいこと聞いちゃった〜っ!
じゃあ、ビターチョコ買ってこなきゃ!
…迷惑、かな?
私からチョコなんてもらっても、迷惑かな?
…一度振られてる。
分かってる。
この恋に見込みはないってこと。
兄妹にもなっちゃったし、勇我は私のこと…
それでも、バレンタインにチョコを渡したいって思っちゃうの。
いいもん、本命チョコだって思ってもらわなくても。
兄妹への義理チョコだと思ってくれても。
それでも…私は勇我にあげたい。
「他にも作る?
オレにも作ってくれるー??」
歩夢のキラキラした目。
「もちろん!
何がいい?」
友達にもあげなきゃだし、今年はいっぱい作らなきゃ!
「んー…
クッキー!」
ビシッと指を指す歩夢。
「了解ですっ」
私はそんな歩夢に敬礼して見せた。
あぁ、やっぱり。
姉弟がいるって楽しいな。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!