第9話

ビター
1,238
2018/01/27 08:03
「おーいっ…あなた姉ちゃん?」


「…へっ!?」


ハッとすると目の前に不機嫌そうな顔をした歩夢が立っていた。


「もう、さっきから呼んでるのにーっ」


「あっ、ごめんごめん…」


初めて家族で食事した時のことを思い出してぼーっとしちゃってた…。


そういえば、私はチョコ作りの最中で…


勇我がつまみ食いしに来て、またどこかに行ったんだった…。


「どうしたの?」


私が聞くと、はぁ、とため息をついて歩夢が言った。


「これ食べていいやつ?」


これ、と私の作ったチョコを指さしながら。


「あ、うんっ、いいよ〜

でも、甘すぎたかな?

勇我に言われちゃって…。」


友達の湊は甘党。


だからミルクたっぷりのチョコレート。


さすがにちょっと甘すぎかな…?


「ううん、美味しい!」


歩夢が食べて笑顔を見せる。


よかった!!


もっと食べていい?って言いながらチョコをひとつ取って口に運ぶ。


そんなに気に入ってくれてよかったよ〜。


よし、バレンタイン、歩夢にはこの甘さで作ろう!


「勇我兄ちゃんさぁ、甘いもの苦手で…

苦いチョコの方が好きだからそーやって言ったんじゃない?」


「あ、そうなんだっ」


知らなかった…。


いいこと聞いちゃった〜っ!


じゃあ、ビターチョコ買ってこなきゃ!


…迷惑、かな?


私からチョコなんてもらっても、迷惑かな?


…一度振られてる。


分かってる。


この恋に見込みはないってこと。


兄妹にもなっちゃったし、勇我は私のこと…


それでも、バレンタインにチョコを渡したいって思っちゃうの。


いいもん、本命チョコだって思ってもらわなくても。


兄妹への義理チョコだと思ってくれても。


それでも…私は勇我にあげたい。


「他にも作る?

オレにも作ってくれるー??」


歩夢のキラキラした目。


「もちろん!

何がいい?」


友達にもあげなきゃだし、今年はいっぱい作らなきゃ!


「んー…

クッキー!」


ビシッと指を指す歩夢。


「了解ですっ」


私はそんな歩夢に敬礼して見せた。


あぁ、やっぱり。


姉弟がいるって楽しいな。

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