I side
手を伸ばした先は、天井だった。
周りを見回すと、少し散らかった、いつもの俺の部屋。窓の外はまだ暗く、三日月が光っている。
でも、夢にしては、結構はっきりと覚えている。
舞い散る桜も、真っ暗なトンネルみたいな場所も。
そして、ピンク色の髪をした青年も…。
時計を見ると、時間はまだ、夜中の3時。
りうらがおかしくなってから、そろそろ5日がたとうとしている。
俺たちはあの後、病院へ行き、りうらは
"ストレスなどにより、架空の人物を作り上げている"
と診断され、今は病院で入院している。
りうら以外の俺たちメンバー4人は、
アニキ→ほとけ→俺→初兎の順番で、一人ずつお見舞いに行っている。
「りうら」の個人活動、そして「いれいす」の活動は、しばらく休止。
大切なメンバーが、頭が狂うまで気づかなかったなんて…
ほんと俺、リーダー向いてないよな。
あの時のりうらの言葉が思い出される。
りうらの中では、『ないくん』がリーダーになっている。
ということは、りうらの中では架空の人物のほうが俺よりリーダーに向いているってことになる。
俺が、リーダーに向いていないから。
りうらは、俺がリーダーに向いていないから、架空のリーダーを作り出してしまったんじゃないか。
この頃、ずっとそんな考えにとらわれてしまっている。
俺のせいで…
俺のせいで、りうらは…。
チッ♪チチッ♪チチッ♪チチッ♪チリリリッ♪チリリリッ♪チリリリッ♪チリリリッ♪チリリリリリリリリリリリリッ♪
騒がしい音を立てて、時計が鳴る。
時間は気がついたら5時半になっていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!