当時まだ白河の姓を名乗っていたアリス姉さんが私にそう声をかけた。
私の問いにアリス姉さんは気まずそうに笑って口を開いた。
思っていたよりも低い声を出した自分に驚いた。
婚約話を勝手に進めるとは。
多分あの糞爺だろう。さっさと破棄しよう。
そう決心した私は神界へ向かった。
糞爺の家に行けば、玄関にはカギがかけられていた。
私はガチャガチャとノブを動かすが、一向に開く気配はなかった。
……急ぎだし、しょうがない。
私はドアを蹴破って中に踏み入れた。
今日、婚約が決まるという事でその相手の実家に来ていた。
話を進める時、大概俺は呼ばれていたが婚約相手が顔を見せたことがなかった。
興味がなくて来てないのか、はたまた保護者への反抗か、あるいは知らされていないのか。
そんなことは正直どうでもよかった。
そんなこと以上に、蹴飛ばされたのか完全に枠から外れた扉が気になった。
よく見れば、足跡もかすかに残っている。
俺は眉を寄せながら、中に踏み入った。
後で、ドアが壊れていたことをこの屋敷の誰かに言っておこう。
中から話声が聞こえる部屋が一つだけあった。
外から声を聴いてみれば、それは糞爺と、誰か若い男の声だった。
婚約相手だろうか?
じゃあ、その婚約相手に嫌われるためにも…
私は、一度目を閉じ、深呼吸をして、もう一度目を開いた。
そして、思い切り扉を蹴った。
バーン、という大きな音がして、扉は開いた。蝶番歪んでそうだけど、気にしない。どうせあの糞爺の家だし。
中にいた二人は呆然とこちらを見ていた。
私はにっこりと笑みを浮かべて言った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。