あれは、突然のことだった。
今までに体験したことの無い、痛みだった。
なんなら、死んでもいいと思ったほどに。
今日は楓真はライブのリハでいない。
こんな時に限って家に1人だなんて、ほんとに運がない。
その時、自分の視界の端にスマホが写った。
精一杯、腕を伸ばした。
これでもかって程に。
痛くて痛くて、はち切れそうになる。
こんなに痛いんだ、新しい命が産まれるって。
自分でも分かってた、これが、陣痛だということに。
半分意識が飛んでいる中で、119を押した。
けれど、そこで、私の意識は途切れた。
夢を見た。
まだ、付き合い始めて、すぐの時の記憶。
あの時、軽く笑い飛ばしたけど、ほんとにすぐだった。
妊娠したってわかった時、楓真が飛んで喜んでいた。
普段全然、家事をやらないくせに、急にやり始めて、
どんどん上達して、いつの間にか私よりも上手くなって。
やっぱり負けちゃうなって悔しくなった。
だから、認めたくないんだ。
この陣痛が、予定よりもすごく早いことが。
でも、痛みが来た時点で、分かってたのかも。
流産になるって。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。