戻ってきた焜炉は、紅丸と桜備の前に日本酒と器を2つ置いた。
キョトンとする桜備に、空緒桜は器に日本酒を注いだ。
空緒桜はそう言いながら、器の1つを紅丸に渡した。
紅丸が受け取り、返事をするのを聞いてから、もう1つの日本酒の器を桜備に向けた。
即答する桜備にニコリと笑うと、空緒桜は器を手渡した。
クイッ
桜備と紅丸は、同時に日本酒を喉に通した。
日本酒の味に息をつきながら桜備が言うと、紅丸がゆっくりと顔を上げた。
その顔には、いつもの紅丸からは想像もできない程の優しい笑顔が浮かんでいた。
森羅たちの反応に、空緒桜は苦笑いを浮かべた。
隣でニコニコと笑う紅丸を見て焜炉も空緒桜と同じように苦笑いを浮かべた。
焜炉の言葉に、空緒桜も相槌を打つ。紅丸は気にせず、少し身長差のある桜備を見上げた。
桜備はそう言いながら、紅丸の笑顔を見つめた。
桜備は違和感を受け入れきれずに探るような目を向けた。
ふと呟いた森羅は、次の瞬間ぶはっと吹き出した。
大きな声で笑う森羅に、第8は呆気に取られる。紅丸は相変わらずの笑顔で森羅を見た。
説得力のないその笑顔に、空緒桜も小さく笑って顔を背けていた。
→𝑁𝐸𝑋𝑇
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!