サァァ…
桜の花びらが舞う。
高校に入ってまだ日が浅い四月。
僕はまだ一人だった。
***
理科室。
ザー
僕はビーカーを洗っていた。
彼女は、有沢あなたさん。
受験の時、僕に鉛筆を貸して
励ましてくれた優しい人。
あれから実はずっと気になってる。
僕と一緒に、A組のクラス委員になった。
***
***
僕のまわりには、
穏やかな空気が流れていた。
でも…
時々、自分の中から声がした。
「おまえ、本当に楽しいのかよ」
って。
***
女の子に告白されても、
まるで心が動かなかった。
友達に囲まれて笑っていても、
何も感じない自分が怖かった。
いつも…
僕は一人なんじゃないのか。
***
有沢さんと僕は、
委員会のプリントを放課後やっていた。
衝撃を受けた。
僕の隣にいる女の子は、
ピンと背筋を伸ばし、
迷いのない目をしていること。
自分の生き方を、
はっきり持っている人だってこと。
彼女を知りたい…!
何を考えるのか。
彼女にも迷いや不安があるのか。
孤独を感じることがあるのか。
もっと…。
***
カタン
桜並木…。
サアア…
花びらが舞う。
嬉しいっっ!!!
か…勘違い!?
僕の勘違いだった。
その時、彼女を…
有沢あなたを好きだって
気づいたんだ。
気持ちがあふれてきて、
こんなにはっきりと何かを望むのは
初めてだった。
僕は恋をしたんだ。
***
その後、予想外の彼女の本質に出会い、
僕も予想外な道をたどることになるのだが…。
まあ人生ってそんなもんだし
後悔なんてしてないね。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。