翌早朝。
一緒に住むと決めてから、早一日。
流石に一緒のベッドに寝るわけにもいかずにソファーで寝ていたため、体のあちこちが痛い。
何もない朝。日差しがよく映えた部屋はまるで映画のワンシーンのようで、まだ何が現実で何が虚構なのかよく分からない。ただ、そんな部屋に黒い霧が立ちこめるように、俺には一抹の不安があった。
リモコンを取り、ちょうどテレビを付け始めた時、青年が入ってきた。
「あぁ、お早う」
「……おはよう」
ニュース番組は昨日のことが何も無かったかのように、連日報道されている議員の収賄容疑について、専門家と意見を交わしている。あれだけ派手な行動をしたにも関わらず、トップニュースに出ないのは、現代日本の治安の悪さを表しているのだろう。
その時だった。
『昨日午後10時頃、○○県○○市内にある◯◯コンビニ付近で、女性が体中から血を流して倒れているのを、コンビニの店員が発見しました。女性は搬送先の病院で死亡が確認されました。
遺体には、刃物のような鋭利なもので刺された傷跡が無数にあることから、警察は他殺と断定し、殺人事件として捜査を始めました。
警察では、女性が何らかのトラブルに巻き込まれた疑いがあるとみて、交友関係を中心に捜査を始めています。』
その県と市は、まさに俺たちが住んでいる所そのものだった。
バレている。そう思うと一気に血の気が引いた。
「お、おい…バレてるじゃないか……!」
「なに、そこまで気にすることでは無い」
「で、でも……」
「安心しろ、おれと貴殿はあの女と一切関わりを持っていない。リストからは外されているようなものだと思え」
確かに、警察は交友関係を中心に調査を始めると言っていた。それなら自分たちは被疑者にされないだろう。
「ブラックでいいかい?」
俺がほっとしていると、いつの間にかコーヒーを入れた青年が新聞を持ってやってきた。
「いや、ミルクと砂糖多めで…」
「分かった」
棚からシュガースティックとコーヒーフレッシュを取り出すと、テーブルに置いた。
……悪くない味。
コーヒーに疎い俺でも、甘い香りに鼻腔は思わず蕩けていく。
「グアテマラの豆だ」
青年はそう言いながら、1人で新聞を読みふける。
よく見ると新聞はその他にも2紙あり、有名2社と地方紙を取っているようだった。
『コンビニ横で刺され死亡』
俺の目はそんな見出しを幾つも捉えた。しかしその全てに自分たちの情報は無く、安堵の気持ちでいっぱいだった。
「……全然無い、ですね」
「ああ。屁と火事は元から騒ぐ、つまり自分たちが騒がなければ何も起きない────覚えておくといい。」
────刹那。
ヴーッと自分のスマホが鳴る。警察か、と思い覚悟するが、それは母親からのものだった。青年に目を合わせると、彼は頷いた。
「……もしもし」
『お母さんだけど、最近元気してる?』
「…うん」
『ニュース見たわよ。住んでる近くで殺人事件が起きたそうじゃない。気をつけなさいよ』
大学をやめると口論した時から仲違いの母親。ぶっきらぼうに、吐き捨てるように言葉を口にした。
「……分かってるよ」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。