第5話

禍福は糾える縄の如し
66
2020/12/30 16:09
「ご馳走様でした」
食事が終わると、またいつものように皿を下げ、シンクに運ぶ。
食事を青年が作り、一緒に食べ、俺が皿を洗う。
まるで同棲しているカップルのように、あるいは熟年の夫婦のように、俺たちの生活は進む。

同棲を始めてからもう一週間になる。住む家が変わったというくらいで特に生活に変化はなく、変に移動が制限される訳でもないので気持ちは軽かった。ただ、買い物から帰るといつも青年が迎えてくれ、一人暮らしの時ひしひしと感じていた孤独感はどこかへ消え去っていた。


青年は一つを除いてはよくできた男だった。
料理は上手いし、大抵の家事はできる。
性格も目立って悪い点はないし、嫌なことがあればすぐ伝えてくれた。

そういえば俺たち名前を教えあっていなかったが、それでいて特に不都合なことは無かったし、お互い楽だった。青年は相変わらず俺の事を貴殿と呼ぶが、俺はなにか決まっている訳でもなかったので、”君”とか”お前”だとか呼んでいたりもした。偶に”白髪さん”なんて呼んだ時は笑われた。

青年は夜仕事に出かけるようだった。何やらホストとかそこら辺関係の仕事らしく、穏やかな青年にはこんな華やかな仕事合わないんじゃないかなんて思ってしまう。
いつも帰るのは俺が寝たあとで、朝起きたら毛布がかかっていたみたいなこともよくあった。

一緒に食事の味見をしたり、映画を見て笑ったり。
いつしか青年に対する恐怖心は消えかかっていて、しまいには少しずつ好意さえ持つようになっていた。


しかしそんな気持ちに比例するように、ある事件が世間の注目を増してきていた。


連続殺人事件。

それはあの日コンビニ隣で起こったのを皮切りに、同じ市で一週間連続で誰かが殺される、という悲惨な事件だ。殺される人は老若男女問わずで、共通点も特にない無差別殺人。まだ犯人は逃走中で、日本中の不安が高まる。

もしかして、青年が?

そう思い問いただすが、違うと言っていた。
これ以上俺に迷惑はかけられないらしく、さらに念の為、お互いあまり外には出ないよう約束した。

連続殺人の犯人は、最初の事件と同一犯であると思わせたいのだろうか。


そんなのは分からなかった。だが次の日、俺が知った事実はあまりにも受け入れ難いものだった────

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