奈都、普通だったなぁ…
今朝も全然よそよそしくなかったし…
昨日私が…
イジワルなこと言っちゃったのに…
「來々ーっ!
何ぼーっとしてんの?
かーえろっ!」
「へ?」
放課後、私の机に手を置いた奈都が言う。
帰る…?
部活あるのに…?
「もー、今日からテスト前1週間!」
「あ。」
そっか、部活ないんだ…
私の学校はテストの前は部活がお休みになる。
まぁ、一応進学校だから…。
「樹世もっ、一緒に帰る?」
隣で帰り支度をしている樹世に声をかけると、おー、と返事が帰ってくる。
「あ、でもサッカー部でちょい10分くらいミーティングするから…
どーする?」
「あ、じゃあ私たち下で待ってるよ」
「りょーかい」
2人でカバンを持って廊下に出ると階段の方から風が吹いた。
「うぅー、寒…」
「教室はストーブがあるから暖かいけど、廊下は寒いね…」
「そーだ、樹世待ってる間ココアでも飲もっか!」
「ココア…?」
カフェでお茶する、ってこと?
でも樹世、10分って…
そんな時間ない、よねぇ…?
「なんだっ、ココアって自動販売機のかぁ〜」
「あったりまえ〜!」
90円の缶ココア。
なぜか置いてあるベンチに2人で腰かける。
「はぁ〜あったまるぅ〜…」
「あ、あのさっ」
うん、やっぱり奈都に謝ろう、昨日のこと。
もやもやしたままじゃ、嫌だ。
「んー?」
「あの、昨日のことなんだけ…」
「あ、來々っ!」
私の言葉を制して奈都が言う。
「そのことで…
私、來々に謝らなきゃいけない。」
…?
謝ることがあるのは、私の方だよ?
「來々…
昨日も、去年も、嘘ついて…ごめんっ…!」
奈都…?
「私…
樹世のことただの幼なじみなんて思ってない…」
「!」
「私もねっ、
…樹世のことが…好き…なんだ…。」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!