バタバタバタ
風が吹きスカートがはためく。
もう夕方だというのに、ジメジメとした気温で髪がベタつく。
私は屋上へ来ていた。
柵の向こう側から見える景色は、今まで見てきた景色より迫力がある。
今日こそは誰もいない。私1人だけ。
もう、誰にも邪魔されない.........。邪魔してはくれない。
息を全て吐き出すと、私はカーディガンを脱ぐ。柵にかけてから三つ編みをほどく。
そこまできて手が止まる。
上へ上へと続いてく空、前へ前へと続いてく風景。そして、下へ下へと続いてく道.......。
どこを見ても一生終わらない景色に見えた。
正直、怖くないの?って聞かれたら怖い。
でも、ここまで来た。もう、あの苦しみを味わいたくない。下へ行けば私には幸せが待っているのだ。苦しみを味わなくてすむ。
でも、怖い。
もし、二度と幸せには辿り着けなかったら?一生下へ落ち続けたら?終わりが見えてこなかったら?痛い思いをしたら?
考え始めたらキリがない。
そう、もう行くのだ。心を決めて。
ここまで来たんだ。もう大丈夫。私はいける。
最後にもう一度景色を見て、背の低い私は1歩前へと踏み出した。そう、地面のない1歩前へ踏み出したのだ。
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今日も私の学校は平和です。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!