第9話

9.別れと帰還と玉手箱
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2019/06/08 09:09
翌朝、私はタコさんに起こされた。
タコさんは私をここに連れてきた張本人。帰りに送ってくれるのもタコさんだという。
ダンディなタコさん
本当にお帰りになってしまうんですか?
ワタクシの嫁さんになりませんか?
まだ言ってる……私はタコさんを無視してカメさんからもらった青い小瓶があることをきちんと確認した。
苦労性なカメさん
お世話になりました、その薬はついたらすぐにお飲みください。
ここに来た時と同じ場所、同じ時間に戻れるはずです
私
わかった
私は周囲を見回した。
来ているのはユウジンだけ。彼は何も言わず壁に背中を預け、腕を組んでむすっとしている。
オトヒメは……来てくれないか。
オトヒメ
オトヒメ
姉さまっ!
私が肩を落としてタコさんの頭に乗ろうとすると、オトヒメがリヒトと一緒にやってきた。
走ってきてそのまま私に抱き着いたオトヒメはぽろぽろと大粒の涙を流している。
オトヒメ
オトヒメ
寂しいです、どうしても帰ってしまいますの?
ここで暮らしていくことはできませんか?
私
ごめんね、私にも向こうでの生活があるから。
オトヒメみたいに可愛い妹ができて楽しかったよ
オトヒメ
オトヒメ
わたしも姉さまに会えてうれしかったです。
向こうの生活に飽きたらまたいつでもお越しくださいね。
これ、玉手箱です。わたしや竜宮城のことが恋しくなったら開けてみてくださいませ
私
おばあちゃんになったりしない?
冗談めかして言うとオトヒメは「大丈夫ですわ」と悪戯っぽく微笑んだ。
リヒト
リヒト
まぁ、いろいろあったけど、なんかありがとう。
仲人ちゃんには感謝してるよ
おやおや?
私から離れたオトヒメはリヒトの隣に並び、リヒトがほんのりと赤くなりながらそっぽを向いた。
なんだかリヒトとオトヒメの様子が少し違う。
私はほっと安堵し、この2人については心残りなく帰還することができそうだ。
ダンディなタコさん
そろそろよろしいですか?
ワタクシも仲人殿とのお別れが悲しいのでもう行かねば逃がさぬようタコ壷に閉じ込めてしまいそうです
私
帰りましょう、いますぐに!
私が言うと、タコさんは力いっぱいタコ足で床を蹴り真上に向かって飛び出そうとする。
びゅんと風を肌に感じ、帰れるんだと実感した。
ユウジン
ユウジン
待ってくれ、仲人殿っ!
いきなりユウジンがタコさんの進行方向に割って入り、私の腕を強く引き戻した。
タコさんはユウジンに頭を踏みつけられてしまい「きゅう」と意識を失ってしまう。
私
タコさん踏んじゃダメじゃない!
ユウジン
ユウジン
うるさい、タコなんぞ知るかっ!
苦労性なカメさん
おやまぁ。これは少し時間がいりそうですな。
某どもは退室いたしましょう
カメさんがオトヒメやリヒトを引き連れて出て行ってしまい、ユウジンと私は気絶したタコさんの上で喧嘩になっていた。
私
どうしてくれるのよっ!
帰る決心もやっと固まったのに!!
ユウジン
ユウジン
うるさいっ!
帰らないでくれと言ってるんだ!!
私
ええっ!?
ユウジン
ユウジン
帰ってほしくない、ここにいてほしい。
自分の元にとどまってほしい。
だから行くなと言っている!
私
う、嬉しいけど
ユウジン
ユウジン
そうか、では!
予想外の告白に私は本当に喜んでいた。しかしよく考えろ私。ここは竜宮城。
私の望む今まで通りの生活は送れない。

私は家族も友人も大切なのだ。
大切な人たちを残したまま、それも親の資金援助で念願の大学生活を送らせてもらっているのに途中で学業を放棄し行方不明のままなんてありえない。そんな親不孝なことができるものか!
私
ごめんなさい、やっぱり私帰るっ!
ユウジン
ユウジン
ここまで好きだと言わせておいてそれが返事か!?
げほっげほっ……今まで受けたこともないようなストレートな告白を受けて私は大きく気持ちが傾いた。
しかしちょうど良いタイミングでタコさんが復活。

私はタコさんの頭を叩いて早く送ってくれとせっついた。
ダンディなタコさん
しっかりつかまっていてくださいよ~~!
しゅっぱーーつ!!
タコ墨を勢いよくはきだし、タコさんは一気に上昇する。
私はあっという間に遠ざかっていく竜宮城を振り返ることなくまっすぐ元いた世界を目指した。

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