翌朝、私はタコさんに起こされた。
タコさんは私をここに連れてきた張本人。帰りに送ってくれるのもタコさんだという。
まだ言ってる……私はタコさんを無視してカメさんからもらった青い小瓶があることをきちんと確認した。
私は周囲を見回した。
来ているのはユウジンだけ。彼は何も言わず壁に背中を預け、腕を組んでむすっとしている。
オトヒメは……来てくれないか。
私が肩を落としてタコさんの頭に乗ろうとすると、オトヒメがリヒトと一緒にやってきた。
走ってきてそのまま私に抱き着いたオトヒメはぽろぽろと大粒の涙を流している。
冗談めかして言うとオトヒメは「大丈夫ですわ」と悪戯っぽく微笑んだ。
おやおや?
私から離れたオトヒメはリヒトの隣に並び、リヒトがほんのりと赤くなりながらそっぽを向いた。
なんだかリヒトとオトヒメの様子が少し違う。
私はほっと安堵し、この2人については心残りなく帰還することができそうだ。
私が言うと、タコさんは力いっぱいタコ足で床を蹴り真上に向かって飛び出そうとする。
びゅんと風を肌に感じ、帰れるんだと実感した。
いきなりユウジンがタコさんの進行方向に割って入り、私の腕を強く引き戻した。
タコさんはユウジンに頭を踏みつけられてしまい「きゅう」と意識を失ってしまう。
カメさんがオトヒメやリヒトを引き連れて出て行ってしまい、ユウジンと私は気絶したタコさんの上で喧嘩になっていた。
予想外の告白に私は本当に喜んでいた。しかしよく考えろ私。ここは竜宮城。
私の望む今まで通りの生活は送れない。
私は家族も友人も大切なのだ。
大切な人たちを残したまま、それも親の資金援助で念願の大学生活を送らせてもらっているのに途中で学業を放棄し行方不明のままなんてありえない。そんな親不孝なことができるものか!
げほっげほっ……今まで受けたこともないようなストレートな告白を受けて私は大きく気持ちが傾いた。
しかしちょうど良いタイミングでタコさんが復活。
私はタコさんの頭を叩いて早く送ってくれとせっついた。
タコ墨を勢いよくはきだし、タコさんは一気に上昇する。
私はあっという間に遠ざかっていく竜宮城を振り返ることなくまっすぐ元いた世界を目指した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。