悩みに悩んだ末、私はオトヒメの笑顔を思い返して心を決めた。
私に呼び出されたカメさんはやけに軽快な足取りでやってきた。
待ちに待ったオトヒメ様の結婚にカメさんはとても浮かれていた。
カメさんが困っている。一妻多夫制なら問題なさそうなのに。
ってそうじゃなくて。
リヒトは薬の開発に夢中だが、それもすべてオトヒメのことを思えばこそ。
オトヒメがいなければ彼は薬学者になっていなかっただろう。
オトヒメの方もリヒトには甘えているからこそ口や態度に出てしまう。
容赦なく狂暴性を発揮できるのは絶対に嫌われないという確信が心のどこかにあるからだと思う。
薬にリヒトを取られてしまい寂しい。
きっとそれがオトヒメの本心だ。
すごいぞカメさん!
私の言いたいことをわかってくれた。
浦島太郎の昔話が真実に基づいたものだとしたら、竜宮城で過ごした短い期間が私の世界では数十年ということもあり得る。
私が苦笑するとカメさんは甲羅の中から青い小瓶を取り出して私にくれた。
ここで得たものが忘れ難いものとなった。
親しくなった人たちと別れることも寂しさがないといえば嘘になる。
だけど私は私の家族と友達のいる場所に帰りたい。
ということでオトヒメには真っ先に帰ることを伝えに行き、案の定泣かれてしまった。
と言われて部屋にこもられてしまい私がオトヒメの部屋の前で扉にしがみついていると、リヒトがニコニコとやってきた。
この人はオトヒメのことしか頭にないんだよなぁ……ニコニコしているがリヒトの背後からは怒りのオーラがたちのぼっている。
リヒトが私に詰めより、壁ドンならぬ扉ドンをされた。
目を逸らす私の顎を無理やりつかんでリヒトは白衣のポケットから黒い小瓶を取り出し、飲ませようとする。
私とリヒトの間に入り込んだユウジンは乱暴に私の腕をつかんで引っ張っていく。
連れていかれたのは広間のソファーでそこにどさっと座らせられた。
チっと舌打ちしたユウジンは、ソファーの背もたれに手をかけて私を腕の中に閉じ込めた。
至近距離でユウジンのグレーの瞳を覗き込んだのはこれがはじめてで、彼の瞳は怒りと悲しみの色を宿してゆらゆらと揺れている。
解放してくれる様子のないユウジンに複雑な気持ちを抱きながら、私は両腕を彼の背中に回してぎゅっと抱きしめた。
まだ何か言いたそうなユウジンを残し、私は部屋に戻った。明日には帰れる。
嬉しいはずなのに涙が出てくるなんておかしいなぁ……
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。