第7話

7.オトヒメと仲人と騎士団長
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2019/05/25 09:01
オトヒメ
オトヒメ
姉さまから誘っていただけるなんて嬉しいですわ
今日は何のお話をしましょうか?
私はオトヒメを誘って女子会中だ。
オトヒメの警護についていたユウジンは部屋の外で生真面目に手を後ろに組み仁王立ちで門番をしている。
私
オトヒメの理想の人ってどんな人?
オトヒメ
オトヒメ
わたしですか?
やっぱりいつまでもわたしのことを大切にしてくれる人ですわ。
今までお付き合いしてみた方たちも優しくて素敵だったんですけど、付き合っているうちに気持ちが離れてしまいました。
なんだか思っていたのと違っていて
私
オトヒメくらい美少女なら別れたがる人なんていなかったんじゃない?
オトヒメ
オトヒメ
そうですわね。
でも殿方たちはいつもわたしを敬っていて疲れちゃいますの。わたしの望むような愛の言葉すらささやいてくれない。竜宮城の姫としてではなくただのオトヒメを愛してくれなければ無意味ですわ
私
あらら、身分違いの恋って障害だらけなんだね。
リヒトのことは?
オトヒメ
オトヒメ
あら、お茶会の時にお話したのがすべてですわ。
薬馬鹿のリヒトはわたしのことなど二の次ですし、わたしを一番に想ってくれないリヒトなんていらないもの
むすっと頬を膨らませる仕草も可愛い。私はオトヒメの頭を撫でた。
私
リヒトはオトヒメのことが一番だと思うんだけどなぁ。
オトヒメには物足りないのね。よしよし
オトヒメは幸せそうにうふふっと笑った。
オトヒメ
オトヒメ
こうしていると本当に姉さまが還ってきたようで幸せ
私
お姉さんがいたの?
オトヒメ
オトヒメ
はい、いたそうです。
でもわたしが2歳ぐらいの時に病気で亡くなってしまったそうですわ。
だからどんな人だったのか、どんな顔で笑う人だったのかも知りませんの。
それでも朧げな記憶の中に両親とは違う誰かが頭を撫でてくれていた思い出があります。
きっと姉さまのような方に違いないですわ
私
そっか。うん
オトヒメ
オトヒメ
ところで姉さま
私
なぁに?
オトヒメ
オトヒメ
姉さまはどんな殿方が好みですの?
よくあの気難しいユウジンと親しい間柄になれましたね、すごいですわ
ぶっは!
いきなり何を言い出すんだこの子は!

私
そ、そんな風に見えた?
普通だよ普通
オトヒメ
オトヒメ
いいえ、とっても親しそうでしたわ。
恋の気配ですか!?
私
おしまい、もうこの話はやめましょう!
仮にもオトヒメの結婚相手候補に好意を持っていますなんて立場的にも言えるわけがない。
ユウジンのことは好意的に思っているが、まだ恋と決まったわけじゃないしセーフだと思う。

オトヒメこそユウジンのことをどう思っているのだろうか?
私
ユウジンは騎士団長として優秀?
オトヒメ
オトヒメ
そうですね、かなり優秀ですわ。
1人で100人くらいの雑兵なら潰せると思います。
腕もたつし彼が騎士団長になってから戦死者はゼロだとか。
ちょっと真面目過ぎて一緒にいると肩が凝ってしまいますけど
私
そう?
私はユウジンくらい生真面目な人だと安心して過ごせるけど。
肩、凝りそうかな?
あれ、でも最初に会ったときは一緒にいると緊張する相手だと思っていたような……あれれ?
オトヒメ
オトヒメ
まぁ、姉さまってばなんて奇特な御方なのかしら。
10人中10人はユウジンといるのは窮屈だと話すくらいですのよ
私
それはさすがに言いすぎなんじゃ……真面目でちょっと時間とお金に細かいだけじゃん
オトヒメ
オトヒメ
あらあら、姉さまが怒ることでして?
不思議ですわね
うふふとオトヒメが微笑み、私はアハハと誤魔化すように笑う。
恋愛体質のオトヒメは恋の気配にとても敏感なご様子。
墓穴を掘らないように気を付けるべきかも……
オトヒメ
オトヒメ
ユウジン!
ユウジン
ユウジン
はい、何でしょうか
オトヒメ
オトヒメ
ちょっと中へ入ってくださる?
私
あの、オトヒメ、何を……
ユウジン
ユウジン
失礼いたします、何かご命令でも?
ユウジンは部屋の主である私に頭を少し下げ、すぐさまオトヒメの方を向いてひざまずいた。
オトヒメはうふふと何か企んでいるようだ。
オトヒメ
オトヒメ
貴方は姉さまのことをどう思いますか?
ユウジン
ユウジン
は?
私
オトヒメ!?
オトヒメ
オトヒメ
どう思いますか、と聞いているのです
ユウジン
ユウジン
は、はぁ。
とても好ましく思っております。
飾ることをせず正直で誰とでも分け隔てなく接することのできる優しい女性です
ユウジンは質問の意図がわからず私の方をちらちらと見ながら、私のことを話している。
好ましいとか言われると動揺してしまうじゃないか。
オトヒメ
オトヒメ
ではわたしのことは?
ユウジン
ユウジン
は、はぁ。オトヒメ様は竜宮城の要たる大切な姫です。
職務時間中は全力でお守りせねばならぬと心得ております
オトヒメ
オトヒメ
そう、ありがとう。もういいわ、下がりなさい
ユウジン
ユウジン
は、では失礼いたします。
仲人殿、急に入ってすまなかった
ユウジンが礼を尽くして退室すると私は撫でていたオトヒメの頭をポコンと叩いた。
オトヒメ
オトヒメ
きゃあ、痛いです姉さま
そんなことを言いつつ嬉しそうなオトヒメにほだされ、叱る気も失せた私はベッドの上にうつ伏せで倒れこんだ。
私
もう……心臓に悪いじゃない
オトヒメ
オトヒメ
ごめんなさい、でも姉さまが遠慮なさるからいけないんですわ
私
遠慮とかじゃないけど……確かに私は堅実な生き方をしている人が好きだよ
オトヒメ
オトヒメ
だと思いましたわ。わたしはいつまでも恋人気分でいさせてくれる人が理想ですの。
でもまっすぐな生き方しかできないユウジンの不器用さには好感を持っていますわ。
姉さまの気持ちはまた違うのでしょうね
私
さぁね、もうわけわかんない
オトヒメ
オトヒメ
わたしは姉さまが一番好きですわ
オトヒメの突然の告白に体を起こすと、オトヒメはベッドのふちに腰かけて私の手を握ってきた。
小さくて触れるだけで壊れてしまいそうな手を間近にし、オトヒメにはやっぱりちゃんとした人と幸せになってほしいと心から思う。
オトヒメ
オトヒメ
姉さまの決めた相手ならわたしも幸せになれると思います。
どちらが最初の夫になっても恨みませんわ
私はオトヒメの淡い水色の髪を手ですきながら、私から見た理想的な結婚相手は彼しかいないと思った。
しかしもう1人の候補者も落第点ではない。

どうしたものかと思い悩んでいるうちに、ユウジンがオトヒメを迎えに来た。
ユウジン
ユウジン
オトヒメ様、そろそろ行かないと
オトヒメ
オトヒメ
今行くわ
ベッドから立ち上がったオトヒメは部屋から出ていく前に振り返り手を振ってくれた。
私も手を振りかえしていたのだがユウジンに穴が開くほど見つめられていることに気づき慌てた。
ユウジン
ユウジン
仲人殿?
元気がないように見えるが平気か?
私
大丈夫、ちゃんとオトヒメのこと守ってあげてね
ユウジン
ユウジン
ああ、任せろ。
ではな。何度も言うが無理はするなよ
適当に返事を返し、私はまた横になる。どうしたものか……

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