カメさんがお酒の入ったグラスを高く掲げながら乾杯の音頭をとると、周りの人たちは待っていましたと言わんばかりに大はしゃぎ。
20歳になってまだ日の浅い私は、日本酒やカクテルをちびちびと広間の片隅で静かに楽しんでいた。
今回はオトヒメ様の結婚前祝という名目で開かれた仲人と結婚候補者たちの親睦会だ。
推定年齢888歳のカメさんはお酒の席が大好きでなにかと理由をつけては頻繁に飲み会を開いているらしい。
私はついこの間、この騎士団長さんに竜宮城内で置き去りにされた。
なんとかカメさんの元までたどり着き事なきを得たものの、知り合いに出会えなかったら今頃どうなっていたことか……考えただけで恐ろしい。
怒りを込めてユウジンの頬をひっぱたき、私はふんと鼻を鳴らした。
ユウジンが平手を避けることなく真っ向から受け止めたのは思いがけない結果だったが、騎士団長程の立場ある人があっさりと攻撃を食らってしまったのは良くないだろう。小娘に頬をひっぱたかれたなんてそれこそ沽券に関わりそうなことだ。
私が謝罪するとユウジンは頬を掻いて横に視線をそらした。
わざとらしくとぼけるユウジンに私は苦笑するしかない。私の怒りをきちんと受け止めてくれる度量の深さに感服するしかなかった。
悪いのはユウジンだと思うが、勤務時間が終わっていたなら強く責めることもできない。
堅苦しいな相変わらず。私はユウジンと2人で静かにお酒を飲みながら会話を楽しんだ。
会話の流れでさらっと言ってしまった後、私ははっとした。これではまるで告白しているみたいじゃないか!
ユウジンは照れた様子もなく落ち着いていたが嬉しそうだ。
もしや万人受けしない性格で付き合いにくい男ナンバーワンと言われてひそかに傷ついていたのだろうか。
なんというか、いろいろと人間関係で苦労していそうだし。
私にそんなことを約束されてもなぁ……
ふらふらとやってきたのはリヒトだった。だいぶ酔っているのか顔が赤い。
何を考えているのかわからない微笑を浮かべながらリヒトは私の肩に肘をのせて寄りかかってくる。
リヒトのきれいな顔が近すぎて私の心臓が跳ね上がった。
リヒトはふふっとからかうように笑いながら小さな声で耳打ちしてくる。
リヒトはううっと苦しそうに口元を片手で覆った。
ああこれって絶対気持ち悪くて吐きそうな一歩手前のやつだ……万が一、この状況で吐かれてしまったら最悪だ。
おえ~~っと言っているリヒトのせいでこっちまで気持ち悪くなってきた。
ユウジンと話し込んでいたうちに私もかなりの量を飲んでいたような気がする。
幸せそうにオトヒメの話をするリヒトはとても優しい表情をしていた。酔っぱらって赤くなっていたはずなのにもう平然としており、足の運びも安定している。
リヒトは白いガラスの小瓶を取り出してふたを開け、返事すら聞こうとせず私の口に小瓶の中身を流し込んだ。ほんのりと甘くてラズベリーっぽい香りが鼻腔をくすぐった。
酔いさましの薬を飲まされた私の体はおかしなことになっていた。ふわふわとした浮遊感とまるでサウナに入っているような暑さを感じ、飲みすぎとは違った気持ち悪さのせいで意識が朦朧としてくる。
私の顔を覗き込みながらリヒトはにっこりとほくそ笑んだ。
その点、私はどうなっても構わないってことか!
最低だ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。