いきなり話しかけられ戸惑っている有彩を気にもとめず話を続けるストーカー。
「覚えてない?私よ、私」
「まぁ、覚えてないのにも無理があるわ。」
ストーカーは有彩と同じくらいの背丈でふっくらとした体つきをしていた。髪は肩くらいで少し汗をかいており、有彩は少し妙な気を感じていた。
「松原 莉奈て言ったらわかるかしら…」
”松原 莉奈“その名前を聞いて有彩は一瞬で思い出す。
それは2年前のこと────
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「お、有彩来た!」
「来ないかと思ったよ〜」
「みんな有彩に会うために来たのよw」
「有彩、こっちもうすぐ肉焼けるけど食う?」
当時の有彩は男女ともに仲が良かった。
美人なのに媚びを売るわけでもなく、ノリのいい性格からみんなに好かれていた。
「萎えってやつ〜?w」
「有彩意外とそういう言葉知らないよね」
「”草生える“とか知らなくて初めて聞いた時ずっと不思議がってたもんねw」
「最近の若者だからよ」
「wwwww」
食事会中も有彩中心にみんなで騒いでいた。
そんな会の傍らで女子数名で集まり、食べては喋っていたのが松原のいるグループでいわゆる有彩を嫌うグループだった。
「ほんっと、騒がしい」
「食事の時くらい落ち着けないのかしら」
「モデルになったからっていい気になりやがって」
松原はその中でリーダー的存在だった。
そして、有彩の幼なじみである潾月に恋していた。
そこため、松原は有彩を1番嫌っていた。
「ほんとにね!」
「みんな年に1回は集まっちゃう!?」
「やっちゃおうよ!」
「とりま、LINEグループ作るからみんな入ってー」
「今日来てない人も入れてよー」
「有彩はこれから芸能活動忙しくなるから誘っても来れなくなっちゃったりして〜」
「いや、そこは仕事してもろてw」
「わかってますよーw」
「とりま、芸能活動頑張れよ!」
「応援してるから!」
「うん、またねー!」
「俺達のこと忘れんなよー!?」
そこで有彩はみんなと別れた。
そして数ヶ月後────
有彩は茈星高校の芸能科に入り、勉強と芸能活動をこなしていた。有彩の知名度も人気も上がってきた頃……
駅で偶然松原と会う。
松原「有彩ちゃん……」
その時の松原は中学卒業後から少し太ってはいたものの松原だとすぐわかった。
松原「そうだね」
松原「えぇ、まぁ」
有彩は性格上人見知りのしないタイプなため久しぶりに会った松原にも気にせず喋っていた。
だが、松原は違った。
松原「……よ…なに……ね……」
松原「よくそんなに明るくいられるわね!」
中学当時の松原は可愛く男子から人気も会った。だが、有彩の方がいつも上でそんな有彩を恨んでいた。テストでは有彩に負け、潾月が好きで潾月に告白するも振られ、しまいには高校受験失敗。滑り止めで入った今の高校にも馴染めず、ストレスで太りつつあった。
そして、その全ての原因を有彩だと決めつけ有彩を恨み続けていた。
松原「大して可愛くもないのにどうして私じゃなくてあんたがモデルになるのよ!?」
松原「あんたのせいで人生めちゃくちゃよ!」
松原「ブスのくせに!デブのくせに!下手なくせに!」
有彩は突然の事に驚きつつ、心が痛むのを抑えながら静かに話を聞いていた。当時の有彩は人気になってきた分、アンチも少しずつ増えていた。イケメン俳優と共演すればアンチされ、人気俳優とコラボすればアンチされ、正直少しずつ心が壊れかけていた。
松原「ごめんねって何!?心にも思ってないでしょ!?」
松原「私はただあなたにいなくなってほしいだけなの」
有彩がその意味を聞こうとした時、周りで見ていた人が通報したのか警察が来て松原は拘束された。
その後松原を見ることはなかったが、アンチに悩んでいた有彩の心に松原の言葉が刺さり、有彩はしばらく芸能活動を休止していた。そして、その間に普通科に変えたのである。それが有彩が普通科にいる理由だ。
そして今、その松原が目の前にいる。
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松原「なんでって、いいじゃないここにいても」
松原「というか私、あの後大変だったんだからね?聴取受けたらカウンセリング連れてかれて……」
松原「そうなんだ……じゃないわよ」
「言ったよね?全てあんたのせいだって。」
松原「あんたのせいで私の人生はめちゃくちゃなの」
その言葉を聞いて2年前のことを思い出すが活動休止から立ち上がった有彩は前より強くなっていた。
松原「は?」
松原「いやいやいや、何言ってんの?」
「あんたのせいだから!」
松原「そ、それは……!」
松原「っうるさいわね!」
言い返せなくてイライラが募る松原。
まっすぐ目を見つめて言う有彩に耐えられなくなったのか松原はズボンの後ろポケットに隠していた物を取り、振りかぶる。
松原「ッいい加減にしなさいよ!」
潾月の声が聞こえたと思ったら床に落ちる赤い雫、周りの人の叫び声、松原の持つ先が赤に染ったカッター。
そして何故か痛む左手首……
そこで初めて自分が切りつけられたと気づく。
顔面蒼白の潾月が見えるし、痛いけど何も反応できない。
止まらない血を抑えながら言う潾月。
あ、なんか耳鳴りがする。目の前も砂嵐みたい……
そこで意識はプツンと途切れた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。