第35話

努力 side神田翼
408
2018/07/30 06:21
とぼとぼと家に帰る。部屋に戻り、着替えた頃にノックがした。
神田翼
何…
優兄さん
さっきはいきなり出て行った
けど何があった?
優兄さんは透華の誕生日の為に、今日は家に帰ってきていた。
俺は透華との出来事を説明する。
すると、どんどん優兄さんの顔つきが険しく
なっていく。
神田翼
…というわけで…
優兄さん
…翼は全く知らないのか?透華
のことを。
神田翼
え?いや、知ってるよ。
優兄さん
知ってたら今回のようなことは
起きない筈だ。ちょっと来い。
優兄さんが廊下へ出ると、透華の部屋の前で
立ち止まった。
優兄さん
この中に入れば、透華のことが
良く分かるよ。
神田翼
……。
ドアを開けると、パッと見普通の女子の部屋
でしかない。奥にピアノがあり、机、ベッド
と見える。
神田翼
いつも通りじゃん。
優兄さん
僕は見るって言っていない。
"入れば"と言ったんだ。
今思えば、俺は透華の部屋に入ったことが
無い。いつも透華が俺の部屋に来ることが
多かったからな。
部屋に入り辺りを見回す。
ドア側の壁にあるのは大きな本棚。
こんなのがあったんだ…
棚を見ると、大量の参考書があった。
2つあった本棚、片方には参考書、もう片方
には……透華が書いたと思われるノート。
丁寧な字で自分の改善点、目標、ポイント。
全てをまとめてあるノートが勉強、ピアノ、
空手…透華が関わった全てのことがノートに綺麗にまとめられていた。
優兄さん
…これを見て、まだ透華のことを天才って言うか?
神田翼
言わない…
優兄さん
透華は努力家なんだ。速く走る
方法を探し、出来ない問題は僕
のところまで聞きに来る。
神田翼
……。
優兄さん
1日くらいなら、1人でも大丈夫
だと思うから、明日は探して
謝ってきな?
神田翼
うん…
そう言うと、俺は部屋に戻った。
本当に俺は馬鹿なことをした…
言われてみれば、透華は毎晩部屋で何かしていたからその時にあれを…
透華に謝ったら勉強を一旦止めて、気が済むまで遊ぼう…
そして、俺は明日に備え早めに寝た…
〜 翌日の放課後 〜
峰田幸輝
翼ー!今日、遊べる?
神田翼
……あ、ごめん、今日は無理。
俺は家出した透華のことで頭がいっぱいで
そのことしか考えていなかった。
早く帰らないと…早く探さないと……
考えながら、歩いていると幸輝が何か叫んでいる。
峰田幸輝
おい!!翼!!!!!
神田翼
え?
上を見ると、信号が赤に変わっている。
そして、横を見た瞬間…
キィィィィィィィッッ〜!!!!
俺の目の前まで迫ったトラック。
ブレーキをかけるも俺は声を出すことなく、
そのまま轢かれてしまったのだった…
目が覚めると、病院のベッドの上。
お母さん
翼!?大丈夫なの!?
お母さんがベッド脇に座っている。
神田翼
う、ん…
お母さん
良かったわ…幸輝君から聞いた
けど、ぼっとしてて赤信号の
横断歩道に歩いて行ったって…
神田翼
……。
そういえば、そうだったっけ…
確か、考え事をしていて………あれ?
その時、優兄さんが病室に入ってきた。
お母さん
優、見つかった?
優兄さん
いや、見つからないよ…
神田翼
何が…?
優兄さん
透華だよ。
神田翼
………透華って…誰?
あの時、何を考えていたっけ…
透華って…誰だっけ?
事故のショックで俺は透華のことを完全に
忘れてしまっていたのだ。
お母さんと優兄さんは顔を合わせ、驚いた顔
をしている。
すると…
お母さん
近所に住んでいる女の子よ…
苦虫を噛み潰したようにお母さんが言った。
優兄さんは俯きっぱなしだ。
今考えれば、受験勉強に必死になっていた
俺を心配させたくなかったのかもしれない…
神田翼
そっか…
覚えていない俺はそう返事をした。
そして、透華の部屋は立ち入り禁止となり、
俺は何も知らないまま育っていった…

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