第30話

最愛の人
428
2018/07/28 06:48
呆然とする私。
振り下げられたナイフは私の目の前で制止。
氷川桜
うっ…ぁ…
翼が武藤先生の手首を掴み、止めている。
包みは結依が抱えていた。
武藤先生
何だ、早く離せ。
神田翼
俺から…
武藤先生
あ?
神田翼
…俺から大切な人をもう奪わないでくれ!!!!!
今まで聞いた中で一番大きな翼の怒鳴り声が
狭い部屋に響く。
翼は激怒した顔で武藤先生を睨みつける。
武藤先生
へぇ…そんな声を神田。お前が
出せたのか。なら…
武藤先生は翼の方に私を突き飛ばした。
氷川桜
ちょっ…!
武藤先生
お前ら一緒に殺してやる!!!
血走った武藤先生の目。
振り上げたナイフが電球で光る。
私の体重がかかったことにより、確実に私達
は床にぶつかる。おそらくスグには起き上がることは難しい。
つまり…死だ。
そしたら、翼がいきなり……
神田翼
幸輝!頼んだぞ!!!
峰田幸輝
は…?
翼が思いっきり私の腕を引っ張り、幸輝達の
方に投げた。
氷川桜
え…?
その反動で翼は武藤先生の方へ…
投げられた私を幸輝が受け止めた。
慌てて後ろを振り向くと、バランスを崩した
翼がいる。
そして…
ザシュッッ!!!
武藤先生のナイフが翼の喉元を切り裂いた…
氷川桜
つ、ばさ……?
横たわる翼の喉からは血が絶えなく出てる。
薄く開いた目から光が失われていく。
黒崎結依
き、きゃあああああああ!!!
結依の悲鳴が響く。それと同時に草薙先生が
動き、武藤先生のナイフを蹴飛ばすと、包丁
を肩に突き刺した。
武藤先生
う"っ…!!
草薙先生
さぁ、裕樹!!!最期は彼女に
制裁してもらおうか!!
そう言うと、草薙先生は武藤先生の髪を掴み
鏡の方を向かせた。
少女
フーーーッ…フーーーッ……
少女は怒りを抑えているように、針を握って
いる両手に力を込めていた。


前髪で見えないが、涙が頬を伝っている。
武藤先生
や、やめろ!何でもするから、
やめてくれぇぇぇぇ!!!!!
悲痛な声で叫ぶが、少女は針を振り上げ、
一瞬の内に武藤先生を八つ裂きにした。
武藤先生が死ぬまでの悲鳴。死んだあとの、
床に出来る血溜まり。
私にとってそんなのどうでもよかった。
翼は死んだ。
大好きな最愛の人が死んだ。
武藤先生なんかどーでもいい。
私はフラフラと翼に近寄り、しゃがむ。
血だらけの頬に手を当てると、微かに残る
翼の温もり。
氷川桜
翼…お願いだから起きてよ……
そう呟くが聞こえる筈がない。
だって…翼はもう死んでいるから……
私の目からは大量の涙が流れ出す。
氷川桜
っ…ぅぁ……つ、ばさぁ……
少女
………あの…
巨大な鏡から声が聞こえた。
部屋の中の全員が鏡を見る。
涙を拭い見ると、白銀の少女は黒髪の少女へ
変わっており、そこからはさっきまでの殺意
は見られない。
少女
…本当にごめんなさい……
俯き申し情けように言う彼女の目には涙が
溜まっていた。
峰田幸輝
…君のこの体は、どうしたらいいんだ。
少しの沈黙のあとに幸輝が問う。
少女
包みを広げてそこに置いてください…
黒崎結依
う、ん…
鼻声で返事をすると、結依は床の真ん中に、
包みを広げて置いた。
ふろしきの上には少女の全身の骨がある。
少女
私の体を見つけてくれて本当に
ありがとうございます……
彼女はそう呟くと静かに針を取り出した…

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