第25話

過去
688
2019/01/14 06:14
千星
千星
すいません……
こんな時間まで一緒にいてもらって
佐久間
佐久間
全然

何分間泣いていただろう

地下の駐車場からは外は見えないが

もう、日が沈みはじめる時間帯じゃないだろうか
佐久間
佐久間
落ち着いたか
千星
千星
はい……ありがとうございます
あの、そろそろ帰らないと……
佐久間
佐久間
んーそうだな……
千星、お前今日は俺ん家泊まってけ
千星
千星
え……
いきなりの佐久間さんの提案に正直驚く





でも



ちょっと嬉しいとも思ってしまった


佐久間
佐久間
無理?
千星
千星
いえ……大丈夫、です
佐久間
佐久間
そか、良かった
そう言って佐久間さんはニカッと笑い

ポンポンと、俺の頭を撫でる
佐久間
佐久間
理由、言いたくなったらでいいから
無理すんなよ
千星
千星
は……い
佐久間
佐久間
おし、じゃー車出すぞ
佐久間さんの手が俺から離れて

ハンドルを握り

車がゆっくりと動き出した










────────────────────────────────
──ガチャ


佐久間さんがマンションの

少し重めのドアを開ける
佐久間
佐久間
どうぞ
千星
千星
あ……ありがとうございます
1回入ったことがあるとはいえ

ちょっと緊張……
佐久間
佐久間
何か飲む?
あるのは……えーっと
お茶、コーヒー、カフェオレ……とかか?
千星
千星
じゃあカフェオレで……
佐久間
佐久間
アイスとホットどっちがいい?
千星
千星
ホットで、お願いします
佐久間
佐久間
りょーかい
そこら辺座って待ってな
そう言うと佐久間さんは微笑んで

キッチンに向かって歩いて行った


俺はリビングにあるソファーのひとつに

ちょこんと座る



前も思ったけど……


佐久間さんの家


一人暮らしにしてはものすごく広いな……


他にも誰か住んでんのかな




リビング以外にも部屋が何個かあるし


お風呂もついてるし……




リビングからは、

キッチンでカフェオレとコーヒーを作っている

佐久間さんの姿が見える









『どんな内容だったとしても
まるごと全部、受け止めてやる』









佐久間さんのあの言葉が


どれだけ嬉しかったか























……今、言おう







理由も








俺の事も








ちゃんと
















じゃないと俺







佐久間さんの優しさに甘えて






ずっとズルズル引きずってしまう気がする










千星
千星
あ、あのっ
佐久間
佐久間
ん?
佐久間さんがキッチンの方から返事をする
千星
千星
その……あの時の理由……
聞いてくれますか……
佐久間
佐久間
ん、わかった
しばらくして

マグカップを2つ持った佐久間さんが

キッチンから出てくる

佐久間
佐久間
ほい
千星
千星
ありがとうございます
佐久間
佐久間
無理は、してないんだよな
千星
千星
はい
そう言いながらも


少し、マグカップを握る手が

震えている自分が情けない




佐久間さんから貰ったカフェオレを口に少し含む


あたたかくて甘いカフェオレが

口の中にふわっと広がって

気持ちを落ち着けてくれた









千星
千星
俺は……自分の親を、知りません
俺は……


俺は、熊ケ谷(クマガヤ)という家の

養子として育てられた





両親は


生きてはいる、らしいけれど



会ったことは無いし

顔も

名前すらわからない




熊ケ谷というのは、俺の両親の

遠い親戚らしいけど

俺に対しては横暴で


小さい頃から俺は


痛い


つらい



そんなの、当たり前で



家でも

学校でも



居場所なんかなかった



唯一いっしょにいてくれたのは雪で

それでも

雪が無理して一緒にいてくれてるんじゃないかって

そう疑ってしまうのも


苦しかった



千星
千星
だから初めてだったんです
純粋に俺自身を必要としてくれた人は
膝の上でギュ……と

拳をにぎりしめる
千星
千星
でも、こんなにあたたかいのもこわくて
おれはこんなの、受け取っちゃいけないって……
どうすればいいかわからなくてっ……だからっ……っ…………






いきなり









全身が








何かあたたかいもので覆われた












千星
千星
佐久間さ……
佐久間
佐久間
ありがとな
話してくれて



気がつくと佐久間さんが


前から、俺を


抱きしめていて




佐久間さんの匂いが

いっぱいで




やっぱり



すごくあったかくて









安心




したのかもしれない







止まったはずの涙が



次から次へとこぼれ落ちていった







千星
千星
ぅ……ふっ…………ん……


唇に




やわらかい感触
千星
千星
んっ……
佐久間さんの唇が



俺のそれを塞いでいた





いきなりのことに驚いて


目を見開く





でも、変に拒否したり


そういう気は全然なくて







あ……佐久間さん


まつげ長いな……




そんなことを考えながら

俺はそのまま



佐久間さんに身を任せて

瞼を閉じる








重ねられた唇の感触が





心地よかった











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