リビングのテーブルに置かれた
鮮やかな色合いのサラダ
こんがり焼けたグラタン
そして……
──佐久間さん
佐久間さんがくれた痛み止めのおかげで
普通に歩けるようになっていた体も
さっきの事のせいでもうバッキバキだ
それに加え
さっき入ってきた風呂で
お湯に浸かったまま突然の激痛で動けなくなり
のぼせてしまって頭がグラグラする
ソファーに寝っ転がりながら
さっき佐久間さんに貼って貰った冷えピタリを指でなぞる
そう言って佐久間さんが
水の入ったグラスを渡してくれた
なんでこういう所、気が利くんだ、この人は
なんだか複雑な気分でグラスの水を喉に流し込む
いきなり生々しい言動を
ぶちかまさないでくれないだろうか
危うく飲んだ水がリバースするところだった
……そう
さっきのアレで
俺は散々喘いだ後
そのまま気絶をして寝てしまったのだ
気がつけば夕方。
服もグシャシグャだし、
帰れるような体ではなかったので
結局一晩、佐久間さんの家に泊めてもらうことになった
ソファーから立ち上がってみると
冷えピタリのおかげか
さっきよりも随分と頭がハッキリとしている
体はまだ痛いけど……
俺は夕食の置いてあるテーブルの
椅子のひとつに腰かけた
目の前のグラタンからは
とてもいい香りがしてくる
────あたたかい
人と一緒にご飯を食べるのなんて
初めてだ
そう思っていると
俺のお腹がグゥーっと鳴った
……実際に夕食を前にすると
自分がどれだけ腹が減っていたかがわかる
……そういえば俺、朝からなにも食べてないしな……
その言葉に連動するかのように
また、俺のお腹がグゥーっと音を鳴らす
あ
……こんなふうに笑うんだ
意外
なんか、笑い方
かわいいな
……って!何考えてんだ!俺!
男に可愛いって!
普通に笑ってただけじゃないか!普通に!
ふざけた口調でからかいにくる佐久間さんをひと睨みし
スプーンですくったグラタンを口にはこぶ
そう言って佐久間さんがまた笑った
イケメンで
面倒見が良くて
料理もできて
この人、本当に完璧じゃねーか
あとはこのゲイ体質が無ければな……
……別に同性愛を否定している訳では無いのだけれど
まさか、自分がその対象になるとは思っていなかった
もったいねー
彼女とか、絶対すぐに出来るのに
あまりに考えすぎて
無意識に佐久間さんの方を見すぎてしまっていたらしい
佐久間さんと視線が思いっきりぶつかる
なんで、この人
俺の考えてること……っ!
凛とした目が
俺を真正面から見つめる
なんで、なんでそんな顔するんだ
優しい目で俺を見てくる
なんだよ、違うって、俺
勘違いすんな
こんな人
絶対、そんなんじゃない
こんな、変な動悸がするのも
ただ単に、動揺してるだけだ
好きとか、色恋とか
そういうんじゃ、絶対ない
馬鹿みたいに戸惑ってんな!俺!
そうだ、話題!
話題を変えようっ!
は、待って
狩宮……
狩宮って!!!!
狩宮 咲真(カリミヤ サクマ)
声優界で知らない人はいない
超人気声優
そして
声優を目指す俺の
最大の憧れの人でもあった
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。