ぱたぱたと大勢の医者が私がいる部屋にやって来た。
ただ、それっきりでなにも話さない。
だが、この沈黙を破るように誰かが声を発した。
その声の主は、丸眼鏡をかけた60過ぎぐらいの医者だった。
その医者はゆっくりと私に近づくと、何かの機械を私の頭に取り付けた。
それがいきなりのことで、私は声をあげずに抵抗する。
でも、次の瞬間、私は動けなくなった。
私の頭に乗っている機械から、色々な情報が無理矢理押し込まれていく感触があり、激しい頭痛が私を襲ったからだ。
丸眼鏡の医者がそういって、私から機械を取り外した。
急に、医者が自己紹介をしてきた。
エディ・ローダー…?
そんな言葉、私は知らなかった。
遅く、それがその人の名前だということに気づく。この世界には人に名前をつける文化があるようだ。
__…じゃあ、私は…?
その時、私は声をはじめて人に発した。
最初から思っていた疑問を、ぶつけた。
すると、エディは少し機嫌が悪そうになって、たっぷりと間を持って
と、いった。
はじめて聞く言葉に、私は首をかしげた。
エディは私の呟きを無視するように、口を開けてこう言った。
○
私は、ある部屋に通された。
殺風景な部屋に、ベッドと、籠に入った果物、トイレがあった。窓から覗く月の光が、部屋を照らしていた。
そういうと、がたん、と勢いよくドアが閉められた。
私は部屋にある、鏡を覗く。そこには、腰ぐらいまでの白い髪で、青い瞳を持つ少女が立っていた。その少女は、死んだような顔をしていた。
それが、始めてみる私の姿だった。
ぶる、と体が震えて、寒いことに気づく。私はベッドの上に置いてあった水色のカーディガンを白いワンピースの上から羽織り、黒い靴下を履いた。
次に、籠の中身を覗く。そこにはリンゴやバナナなどの、果物が入っていた。
籠の下に、紙切れがあった。
私は、それを開いて、読んでみる。
もしこの手紙を見ているなら、今すぐそこから逃げ出した方がいい。
君は人工人間。人間に臓器を差し出すために作られた、いわば身代わりのロボットだ。
人工人間は0歳のときに作られ、大体13から80歳で目覚める。それは、人間に与える臓器のサイズを合わせるためだ。
もし君が15歳ほどなら、君は15歳の人間に臓器を与える使命が作られている。
君があった医者達は、人工人間の価値など全く分からない、残酷な人間だ。
今すぐそこから逃げ出して、外の世界に行くんだ。
人間に身代わりとして殺されるか、外の世界で生きるか、良い方は言うまでもない。
外に出たら、アンクル孤児院を探せ。そこでなら、バレずに匿ってもらえるはずだ。
今すぐ逃げ出すんだ!殺されたくなければ!
___殺される…?
この手紙を書いた人はわからない。でも、人工人間で、もう死んでしまった人だということはハッキリしていた。
私はこの手紙を読んでから、不快感に襲われていた。
あの人も、あの医者も、エディ、という人も、
__……残酷な人間…?
私は窓を見上げた。そこまで高くはなく、私だったら入れそうだ。
ベッドから窓に乗り移り、そこから地面に降りた。
地面には、草むら辺りに靴が用意してあった。
私は手紙の人の用意だろう、と思い、その靴を履いて逃げた。
風の抵抗を受けて私の髪の毛がなびく。
__私はその時、はじめて涙を流した。
流した理由は、わからなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。