第4話

あなたは天使
1,631
2022/03/14 09:00


見上げると太陽が眩しくて
彼の顔がよく見えなかった。

まるで地上に舞い降りた天使のように
後光が差して見える。
月野 雫
月野 雫
もしかして私、死んだ?
天使が迎えに来ちゃった?
??
はぁ?何言ってんの
っていうか気をつけろよ
死ぬとこだったんだから!

怒った声でそう言われ、はっとする。
月野 雫
月野 雫
(そっか私、あのまま線路に
落ちてたら死んでたんだ……)

もし腕を引っ張ってくれていなかったら?
と思うとゾッとした。
月野 雫
月野 雫
ありがとうございました!
とにかくお礼が先だと思い頭を下げると
目の前の彼は小さく笑った。
??
どういたしまして
それより俺のこと、覚えてる?
月野 雫
月野 雫
えっと…
壁の人ですよね?
??
壁の人って……
もっと他の言い方あったでしょ!
彼はぷっ!と吹き出すように笑った。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
俺は五十嵐晴人いがらしはると
キミと同じ高校の先輩だよ
だから敬ってね

背の高い彼は、少しはにかみながら自己紹介した。

「敬ってね」は余計だと思う。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
で、キミの名前は?
月野 雫
月野 雫
月野雫です
高校1年です
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
へ~雫か
確かに、キミ
泣いてばっかだもんね

からかうようにそう言った先輩。

意地悪な発言とは裏腹に
先輩の笑顔はずっと優しかった。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
あーその
1つだけ提案が
あるんだけどいい?
月野 雫
月野 雫
提案……ですか?

先輩が少し目を逸しながら
ごにょごにょと何かを言った。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
これからはさ……
一緒に……しない?
月野 雫
月野 雫
え?!
今なんて言いました?
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
だから!危なっかしいから
これからは俺と一緒に登校しない?

半ばやけくそな感じで言い放たれた提案は
意外なものだった。
月野 雫
月野 雫
一緒にですか?
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
最寄り駅は同じみたいだし
キミなんか最近危なっかしくて
月野 雫
月野 雫
最近……?
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
いや、別に俺はずっと見てたとか
そんなんじゃなくて……!


謎に焦っている先輩はなんだか可愛かった。
月野 雫
月野 雫
いいですよ
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
本当に!?
ぱあっと明るくなった表情が
まるで散歩に行く前の大型犬みたい。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
通勤ラッシュとかぶってるけど
いつもの時間でいいよね?
月野 雫
月野 雫
はい……って今日の電車は
もうだいぶ前に行っちゃってますね
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
今日は俺がいるから
何かあればまた
壁にしてくれていいよ
私の事情なんて知るはずもないのに
先輩はすでに壁になるつもりらしい。
月野 雫
月野 雫
こんなに誰かと喋ったの
いつぶりだろう……
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
え?

いつの間にか先輩の優しさと気遣いに
ほだされてしまっていたみたい。

人なんて信じないほうがいいに決まってる。

でも……。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
あ!電車来たよ
月野 雫
月野 雫
うわっ!案外この時間でも
混んでますね
壁の出番ですよ!
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
へぇー
意外と生意気なとこあんじゃん!

そう、これは恋なんかじゃない。

恋じゃないから大丈夫だ。



この小説のもとになった高橋玄(おさるのうた)さんの楽曲を聴いてみてください。

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