見上げると太陽が眩しくて
彼の顔がよく見えなかった。
まるで地上に舞い降りた天使のように
後光が差して見える。
怒った声でそう言われ、はっとする。
もし腕を引っ張ってくれていなかったら?
と思うとゾッとした。
とにかくお礼が先だと思い頭を下げると
目の前の彼は小さく笑った。
彼はぷっ!と吹き出すように笑った。
背の高い彼は、少しはにかみながら自己紹介した。
「敬ってね」は余計だと思う。
からかうようにそう言った先輩。
意地悪な発言とは裏腹に
先輩の笑顔はずっと優しかった。
先輩が少し目を逸しながら
ごにょごにょと何かを言った。
半ばやけくそな感じで言い放たれた提案は
意外なものだった。
謎に焦っている先輩はなんだか可愛かった。
ぱあっと明るくなった表情が
まるで散歩に行く前の大型犬みたい。
私の事情なんて知るはずもないのに
先輩はすでに壁になるつもりらしい。
いつの間にか先輩の優しさと気遣いに
ほだされてしまっていたみたい。
人なんて信じないほうがいいに決まってる。
でも……。
そう、これは恋なんかじゃない。
恋じゃないから大丈夫だ。
この小説のもとになった高橋玄(おさるのうた)さんの楽曲を聴いてみてください。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!