第3話

そこなしの夜
1,942
2022/03/07 09:00


あれから、眠れない夜が続いていた。

結城 翔
綾香に乗り換えてよかったわ
心に突き刺さった言葉が何度も頭の中に響いて
怒りと悲しみと孤独が一気に押し寄せてくる。


でも、思い出は辛いものばかりじゃなかった。

2人と過ごした楽しい日々が輝いて見えるからこそ
裏切られ、ひとりぼっちになった今が
より一層寂しく感じる。
​───────
​─────
杉崎 綾香
ねえ!
今度一緒に夢の国に行かない?
予定立てようよ!
月野 雫
月野 雫
いいねいいね~!
何乗る?
杉崎 綾香
私、絶叫系
ダメなんだよね~
結城 翔
なーに話してんの?
ちなみに俺は
絶叫系大好きだから
月野 雫
月野 雫
翔には聞いてないから!
結城 翔
ひっでー!
てか俺も一緒に行っていい?
杉崎 綾香
ダメ!
私と雫の予定だから
邪魔しないでよね
結城 翔
なんだよケチ!
​─────​
───────

なにげない会話も、笑いあった休み時間も
一緒に過ごした放課後も休日も
全部全部楽しかった。
月野 雫
月野 雫
(あの時、私が日誌なんて届けなきゃ
今でも楽しい日々が続いてたのかな?)
そんな不毛なことを考えてただ虚しくなった。
月野 雫
月野 雫
……またあの曲
聴こうかな

私はYouTubeを開いて、最近繰り返し聞いている
「そこなし」という曲を流し始めた。



夜風に当たりながら
何もかも忘れてただひたすら
曲だけに集中する。


歌詞に出てくる「わたし」が
まるで今の私みたいで
こうして曲に浸っている時間だけは
何も考えなくて済むのが嬉しかった。


そうしているうちに私は眠りに落ちていた。





そして、気づけば駅にいた。
月野 雫
月野 雫
え?あれ?
結城 翔
ごめん待った~?
杉崎 綾香
おはよ雫!
月野 雫
月野 雫
え?おは、よう?

そこにはいつものように
元気に挨拶してくれる2人がいた。
結城 翔
なにぼーっとしてんだよ
電車乗り遅れるぞ?
杉崎 綾香
どうしたの?
そんな顔して!
月野 雫
月野 雫
2人は付き合ってる
はずじゃ……
結城 翔
はあ!?
俺はお前とつきあってるだろ?
寝ぼけてんのか?
杉崎 綾香
そうだよ
私が雫を裏切るわけ
無いでしょ
月野 雫
月野 雫
そう……だよね
結城 翔
ほら、はやく電車乗れよ!
杉崎 綾香
雫?乗らないの?
月野 雫
月野 雫
うん!ってあれ?

一歩、また一歩と進んでいるのに
いつまで経っても2人の乗る電車にたどり着けない。
車掌さん
ドアが閉まりまーす
月野 雫
月野 雫
待ってください!
月野 雫
月野 雫
2人とも待って!
待ってってば!!


走り出す電車を必死に追いかける。

でも、2人を乗せた電車は
どんどん加速していき、最後は見えなくなった。

たった一人、駅に残された私は
足もとが崩れ落ちるような感覚に飛び起きた。
月野 雫
月野 雫
はっ!!

そこは、朝日の差し込む自分の部屋。
月野 雫
月野 雫
夢みてたんだ……
汗をびっしょりかいた私は
悪夢を見たんだと自覚する。
月野 雫
月野 雫
うわ!もうこんな時間!?
本当に電車に乗り遅れる!

私は急いで身支度を済ませた。






​────そして駅のホーム。

重いまぶたをこすりながら、駅のホームを歩く。

2人に会わないための
早起きにはだんだん慣れてきたけど
眠れない夜が続いたせいかそろそろ限界みたい。
車掌さん
3番ホームに電車が参ります
黄色い線の内側までお下がりください
月野 雫
月野 雫
ふぁ……
さすがに眠いな……


悪夢のせいなのか、足元がふらつく。

と、その時……ドンと背中に人がぶつかった。

ふらつく足のせいか
そのまま前へつんのめってしまう。
月野 雫
月野 雫
(うそ、落ちるっ……!)

まるでスローモーションのように
電車が迫ってくるのが見える。
??
危ないっ!!

とっさに腕を掴まれ、後ろに強く引っ張られる。
月野 雫
月野 雫
うわっ!

そのまま足がもつれて転んでしまう。

衝撃に備えて思わず目をつぶったけど
何かが下敷きになって、
ほとんど痛みを感じなかった。

恐る恐る目を開けると同じ高校の制服が目に入った。
そして、ひとつ上の学年のネクタイ。

彼が私を受け止めてくれたらしい。
??
いってて……
聞き覚えのある落ち着いた声と
しゃがんでいてもわかる背の高さのおかげで
誰なのか一瞬でわかった。



この小説のもとになった高橋玄(おさるのうた)さんの楽曲を聴いてみてください。

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