あれから、眠れない夜が続いていた。
心に突き刺さった言葉が何度も頭の中に響いて
怒りと悲しみと孤独が一気に押し寄せてくる。
でも、思い出は辛いものばかりじゃなかった。
2人と過ごした楽しい日々が輝いて見えるからこそ
裏切られ、ひとりぼっちになった今が
より一層寂しく感じる。
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なにげない会話も、笑いあった休み時間も
一緒に過ごした放課後も休日も
全部全部楽しかった。
そんな不毛なことを考えてただ虚しくなった。
私はYouTubeを開いて、最近繰り返し聞いている
「そこなし」という曲を流し始めた。
夜風に当たりながら
何もかも忘れてただひたすら
曲だけに集中する。
歌詞に出てくる「わたし」が
まるで今の私みたいで
こうして曲に浸っている時間だけは
何も考えなくて済むのが嬉しかった。
そうしているうちに私は眠りに落ちていた。
そして、気づけば駅にいた。
そこにはいつものように
元気に挨拶してくれる2人がいた。
一歩、また一歩と進んでいるのに
いつまで経っても2人の乗る電車にたどり着けない。
走り出す電車を必死に追いかける。
でも、2人を乗せた電車は
どんどん加速していき、最後は見えなくなった。
たった一人、駅に残された私は
足もとが崩れ落ちるような感覚に飛び起きた。
そこは、朝日の差し込む自分の部屋。
汗をびっしょりかいた私は
悪夢を見たんだと自覚する。
私は急いで身支度を済ませた。
────そして駅のホーム。
重いまぶたをこすりながら、駅のホームを歩く。
2人に会わないための
早起きにはだんだん慣れてきたけど
眠れない夜が続いたせいかそろそろ限界みたい。
悪夢のせいなのか、足元がふらつく。
と、その時……ドンと背中に人がぶつかった。
ふらつく足のせいか
そのまま前へつんのめってしまう。
まるでスローモーションのように
電車が迫ってくるのが見える。
とっさに腕を掴まれ、後ろに強く引っ張られる。
そのまま足がもつれて転んでしまう。
衝撃に備えて思わず目をつぶったけど
何かが下敷きになって、
ほとんど痛みを感じなかった。
恐る恐る目を開けると同じ高校の制服が目に入った。
そして、ひとつ上の学年のネクタイ。
彼が私を受け止めてくれたらしい。
聞き覚えのある落ち着いた声と
しゃがんでいてもわかる背の高さのおかげで
誰なのか一瞬でわかった。
この小説のもとになった高橋玄(おさるのうた)さんの楽曲を聴いてみてください。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。