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第10話

ふたりのくらし
836
2022/04/25 09:00
そして数年後。
私は上京し、都内の大学に通っている。

月野 雫
月野 雫
ただいま~
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
おかえり雫!

そして先輩、いや晴人とは同棲を始めた。
そんな毎日が何よりも楽しくて、幸せで​───。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
ねえ聴いて!
新しく作った曲なんだけど……
月野 雫
月野 雫
夜に聞くからまずはご飯ね
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
今聴いてくれてもいいじゃん~
ほらほら

彼はそう言って、まだ玄関なのに
ワイヤレスイヤホンを強引に耳につけてくる。

今回の曲は相当自信があるみたい。
月野 雫
月野 雫
しょうがないな~

といいつつ、本当は毎回すごく楽しみなんだ。
そうして目を閉じて彼の曲に耳をすませる。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
どう?いいでしょ?
月野 雫
月野 雫
うん、完璧
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
雫の感想そればっかじゃん
ちゃんと聴いてる?
月野 雫
月野 雫
聴いてるって!
どの曲も完璧を更新してる
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
本当?!

ぱっと明るい笑顔で笑う彼。

こんな2人の暮らしが
永遠に続けばいいのにと願ってしまう。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
じゃあ明日は久しぶりの休みだし
どっか遠くに出かけよっか?
月野 雫
月野 雫
歌詞につまってるんじゃないの?
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
だからだよ!
やっぱ引きこもってばっかじゃ
いい歌詞も浮かばないしさ?
月野 雫
月野 雫
じゃあ久しぶりに
一緒に電車にでも乗ろっか?
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
いいね




​───そして翌日。


私達は電車に揺られ、目的地の海へと向かった。

まるで高校の頃のように隣に座って
2人で車窓の景色を眺める。
月野 雫
月野 雫
そう言えばさ
ずっと聞きたいことが
あったんだけど……
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
んー?なにー?
月野 雫
月野 雫
高校の頃にさ
「恋はもう二度としない」
って言ってたでしょ?
なのにどうして私と
付き合ってくれたのかなって
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
あ~~……
それね

晴人は少しだけ言葉を出し渋りながら答える。

五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
正直、怖かったんだよね
月野 雫
月野 雫
怖い?
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
恋するのが怖かったんだ
好きになって付き合っても
お互いずっと同じ気持ちで
いられるなんて奇跡に近いじゃん?
月野 雫
月野 雫
そう、だね……
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
俺だってそれなりに
ツライ恋をしてきたからね~
私が俯いたせいか、おどけてみせる彼。
そっか……彼も恋に臆病になっていたんだ。

五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
信じてくれないだろうけど
俺、雫に一目惚れだったんだ
月野 雫
月野 雫
ええ!?
あまりの衝撃に目を見張る。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
ほら、初めて会った時
雫泣いててさ
俺の手を払い除けたんだよ
月野 雫
月野 雫
え!?
そんなことあった?
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
たぶん、雫はあれが俺だって
気づいてなかったけど
月野 雫
月野 雫
そ、そうなんだ…
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
雫の涙があまりに綺麗でさ
一瞬で好きになったのに
なぜか告白出来なくて
代わりに一緒に登校しよって
言っちゃったんだよな~……

彼は真っ赤な顔でそう言った。

月野 雫
月野 雫
そっか……
じゃあ私と同じで
臆病だったんだね
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
俺らって似た者同士?
月野 雫
月野 雫
そうかもね

そう言って笑い合う。

もしこの先何があったとしても
私はこの恋を後悔しないだろう。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
あ、いい歌詞思いついた
月野 雫
月野 雫
どんな歌詞?
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
んーまだ秘密!
月野 雫
月野 雫
え?なんで!?
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
まだ完成してないから

彼は真剣な横顔でスマホに歌詞をメモっている。

そうだ。
いつも真剣で、前を向いている彼に
私は恋をしたんだ。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
夜に聴かせてあげるから
楽しみに待ってて
月野 雫
月野 雫
うん!!


そしてその夜
私は晴人の弾くギターの音色に耳を傾けていた。

まるで子守唄のようにやさしい彼の声が眠りを誘う。


悩んで苦しんで眠れなかったそこなしの夜は、
もうない。


END
この小説のもとになった高橋玄(おさるのうた)さんの楽曲を聴いてみてください。

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