そして数年後。
私は上京し、都内の大学に通っている。
そして先輩、いや晴人とは同棲を始めた。
そんな毎日が何よりも楽しくて、幸せで───。
彼はそう言って、まだ玄関なのに
ワイヤレスイヤホンを強引に耳につけてくる。
今回の曲は相当自信があるみたい。
といいつつ、本当は毎回すごく楽しみなんだ。
そうして目を閉じて彼の曲に耳をすませる。
ぱっと明るい笑顔で笑う彼。
こんな2人の暮らしが
永遠に続けばいいのにと願ってしまう。
───そして翌日。
私達は電車に揺られ、目的地の海へと向かった。
まるで高校の頃のように隣に座って
2人で車窓の景色を眺める。
晴人は少しだけ言葉を出し渋りながら答える。
私が俯いたせいか、おどけてみせる彼。
そっか……彼も恋に臆病になっていたんだ。
あまりの衝撃に目を見張る。
彼は真っ赤な顔でそう言った。
そう言って笑い合う。
もしこの先何があったとしても
私はこの恋を後悔しないだろう。
彼は真剣な横顔でスマホに歌詞をメモっている。
そうだ。
いつも真剣で、前を向いている彼に
私は恋をしたんだ。
そしてその夜
私は晴人の弾くギターの音色に耳を傾けていた。
まるで子守唄のようにやさしい彼の声が眠りを誘う。
悩んで苦しんで眠れなかったそこなしの夜は、
もうない。
END
この小説のもとになった高橋玄(おさるのうた)さんの楽曲を聴いてみてください。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。