第8話

告白
967
2022/04/11 09:00


でも、私と先輩のタイムリミットは
刻一刻とせまっていた。

肌寒い冬が近づいていた。
先輩の卒業まで、あと少し。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
3学期から
3年生は自由登校になるんだ
月野 雫
月野 雫
え?
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
ほぼ授業はなくて
受験勉強に向けて自習になるんだよ
月野 雫
月野 雫
じゃあ……もう一緒には……
最後まで言うのが怖くなった。
思ってたよりも早く
この関係は終わってしまうんだろうか。

そう思うと一気に心細く、悲しくなる。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
でも俺、学校の方が
作曲とか捗るんだよな
月野 雫
月野 雫
じゃあ!!
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
お前のことも心配だし
ギリギリまで一緒に登校する?
月野 雫
月野 雫
いいんですか!?
やったー!

よかった……。

ほっとする反面、ある考えが浮かぶ。

じゃあ先輩が卒業しちゃったら?
もう二度と会えないの?

寒気がして震えてしまった。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
最近寒いよな
これやるよ、はい
先輩はからかうように
温かいレモネードの缶を頬にあててきた。
月野 雫
月野 雫
飲みかけですか?
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
なわけねーだろ
おごってやるってことだよバカ
敬えよ〜
月野 雫
月野 雫
ぷっ!その「敬えよ」ってやつ
初めて会ったときにも
言ってましたよね
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
え?言ったっけ?
月野 雫
月野 雫
言ってましたよ!
先輩が卒業しちゃったら
こんな軽口も言えなくなる。

この笑顔だって、大型犬みたいな愛嬌だって
全部遠くに行っちゃうんだ。

変な焦りだけが心の中に残った。




そしてまた、眠れない夜が始まった。
毎晩毎晩、先輩のことばかり考えている。

ようやく、そこなしの夜から抜け出したと思ったのに
今度はそこなしの恋にずぶずぶと溺れていく。
月野 雫
月野 雫
あの時、私も東京に行くって言ったら
先輩はなんて答えてくれたんだろう?
 
そんなことばかりぐるぐる考えて
いつの間にか朝になる毎日。
月野 雫
月野 雫
そう言えば私……
先輩の連絡先すら知らないじゃん
毎朝同じ電車で通学するだけの関係。
それだけでいいと思っていた。

だけどもう、そんな現状に
満足できなくなっちゃったのかな?

それでも何も言えない
自分の臆病さがすごく嫌いだ。
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
まーた
ぼーっとして!
駅のホームでぽんと肩を叩かれて
びっくりして振り返る。
月野 雫
月野 雫
先輩……
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
ごめんごめん
びっくりした?
楽しそうな先輩の笑顔を見た瞬間
謎の焦燥感に襲われて、思わず声が出ていた。
月野 雫
月野 雫
好きです
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
え?


あれ?私何言ってんだろ?
でも、もう止まんない!
月野 雫
月野 雫
ずっと好きでした
先輩のこと、好きなんです!!

飛び出した言葉は引っ込みがつかなくて
あまりにも急な告白になってしまった。
月野 雫
月野 雫
あ……
五十嵐 晴人
五十嵐 晴人
えーっと……

言ってしまったと自覚して、カッと顔が熱くなる。

バカだ私……!!
今すぐ逃げだしたい!
車掌さん
ドアが閉まりまーす
容赦なくバタンとドアが閉まった。

私達2人をホームに残したまま
ゆっくりと電車が発車した。


この小説のもとになった高橋玄(おさるのうた)さんの楽曲を聴いてみてください。

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