でも、私と先輩のタイムリミットは
刻一刻とせまっていた。
肌寒い冬が近づいていた。
先輩の卒業まで、あと少し。
最後まで言うのが怖くなった。
思ってたよりも早く
この関係は終わってしまうんだろうか。
そう思うと一気に心細く、悲しくなる。
よかった……。
ほっとする反面、ある考えが浮かぶ。
じゃあ先輩が卒業しちゃったら?
もう二度と会えないの?
寒気がして震えてしまった。
先輩はからかうように
温かいレモネードの缶を頬にあててきた。
先輩が卒業しちゃったら
こんな軽口も言えなくなる。
この笑顔だって、大型犬みたいな愛嬌だって
全部遠くに行っちゃうんだ。
変な焦りだけが心の中に残った。
そしてまた、眠れない夜が始まった。
毎晩毎晩、先輩のことばかり考えている。
ようやく、そこなしの夜から抜け出したと思ったのに
今度はそこなしの恋にずぶずぶと溺れていく。
そんなことばかりぐるぐる考えて
いつの間にか朝になる毎日。
毎朝同じ電車で通学するだけの関係。
それだけでいいと思っていた。
だけどもう、そんな現状に
満足できなくなっちゃったのかな?
それでも何も言えない
自分の臆病さがすごく嫌いだ。
駅のホームでぽんと肩を叩かれて
びっくりして振り返る。
楽しそうな先輩の笑顔を見た瞬間
謎の焦燥感に襲われて、思わず声が出ていた。
あれ?私何言ってんだろ?
でも、もう止まんない!
飛び出した言葉は引っ込みがつかなくて
あまりにも急な告白になってしまった。
言ってしまったと自覚して、カッと顔が熱くなる。
バカだ私……!!
今すぐ逃げだしたい!
容赦なくバタンとドアが閉まった。
私達2人をホームに残したまま
ゆっくりと電車が発車した。
この小説のもとになった高橋玄(おさるのうた)さんの楽曲を聴いてみてください。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。