思い出した。全部、全部。
さとみくん、天ちゃん、皆…
自然と視界が歪み、雫がこぼれ落ちる。
やだ、やだやだやだ。
まだ、死にたくないよ。
目の前には三途の川。
その水の流れはさっきより
勢いを増しているようだった。
轟々とうねり、できた渦は
私を飲み込もうとしているみたいで。
格好悪くも後ずさってしまう。
怖い、怖い怖い怖いっ…!
そう思い、目をつぶった時だった。
『____あなた』
また声が聞こえた。
さとみくんとは違う、安心する声が聞こえた。
その声の主はお兄ちゃん。
先程まで柔らかな笑顔を浮かべていたのに
今の顔は…すごく泣きそう。
やめてよ。そんな顔しないで。
笑っててよ。
お兄ちゃんの笑顔、大好きなんだ。
一番好きなの。
だから笑って…お兄ちゃん。
『…俺はまだ早いと思うよ』
早いって何が…。
『今の人、あなたの大切な人なんだろう?
まだ何かを伝えきれてないんだろう?
…お別れをするにはまだ、早いと思うんだ。』
お兄ちゃんには、全部分かっちゃうんだよね
そうだよ、私はまだ何も伝えられてない。
さとみくんは " 愛してるよ "って
伝えてくれたのに、私は…
刹那、光が私を包んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。