モブ視点
モブ「はぁ……」
ボーダー基地の長い廊下の真ん中。
ふと、ここで自分は何をしてるんだろうと思った。
いつまで経ってもC級……個人ランク戦では負けることがもはや日常になっている。
なんで入ったかなんて、そりゃミーハーな私は宣伝の広告を見たときに「もしかしたら自分も…」なんて考えてしまったのだ。
今ではその時の自分が憎らしくてたまらないけど。
そんなことを考えつつ、今日も個人ランク戦のブースに向かう足は私がまだ辞める勇気もない証拠だった。
モブ「___ん?」
あ、あれって…緑川さん!?
あの若さにしてA級隊員で抜群のセンスと才能の持ち主と噂の子だよね!?
誰かを探しているのかキョロキョロと辺りを見回している。
噂で聞いてたより小さいなぁ……
落ち込んでいたときに見かけるなんて…これは神様からの応援だろうか。
せっかくだし、と思って声をかけようとすると_______
モブ「、!」
何を思い立ったのか緑川さんは自分で髪の毛を乱し始めた。それはもうわしゃわしゃと。
ただでさえ少し癖っ毛なのがぐしゃぐしゃにしたことで毛量以上のボリュームに見える。
でもホントになんで……?
じっと見てたら、緑川さんがある一点を見てることに気づく。
視線の先を追いかけると反対側から歩いてくる1人の人物に目が止まった。
ええっ!?ボーダーの天使っ!?!!?なんでここに……
ボーダーの天使こと空閑あなたさん。
A級フリー隊員で個人総合一位と太刀川さんとも肩を並べる実力者。
人当たりがよく誰とでも仲良くなれる。運動神経よし、頭良しの完璧超人。
だがその実少し抜けてるところがあり、喜怒哀楽もはっきりした人。まさしくギャップ萌えである。
ボーダー内ではおろか、街でも大人気な彼女。
そんな人が目の前で緑川さんとしゃべってる。
よくないと思いつつも、好奇心が勝ってしまい、少し近くに寄って会話を盗み聞きすることにした。
緑川「あなた先輩!」
あなた「あれ?緑川くん。1人?」
緑川「1人!というか、駿でいいって言ってるじゃん」
あなた「まだちょっと緊張しちゃって…」
あはは……と困ったように笑うボーダーの天使。尊い。
あなた「というか緑川くん髪ぐしゃぐしゃっ。どうしたの?」
緑川「えっへへ、さっきあなた先輩見つけて走ってきたからかなぁ」
_______ん?
あなた「ちゃんとしないと早紀ちゃんに怒られるよー?」
緑川「えー、じゃあ先輩がなおしてよー」
んんんん??????
あなた「もー…仕方ないなぁ。」
緑川「先輩の手柔らかいね」
あなた「そうかな?」
えっ、?んんん??はい???
まってまって、さっき緑川さん自分で髪ぐしゃぐしゃにして…………
もー、と言いながら直してあげる天使。
嘘でしょ_、まさかこれ狙ってワザと…………
んっ?ちょっ、なんかこっち見てない、…?
緑川「(ニコッ)」
モブ「ひぇっ」
ドス黒い笑みに思わず息を呑む。
ばっ、バレてた〜〜……………
にっこりしながらも、その目は鋭い猛獣みたいで。
"邪魔するなよ"
牽制してくる緑川さんに冷や汗すら滲んでくる。
あなた「どうしたの?」
緑川「んーん。なんでも!ていうかこの後なんもない?」
あなた「特にないけど…」
「じゃあさ、〜〜〜」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。