那津岡アカネと私は、世間一般で言う幼馴染みに該当する。
幼稚園から一緒で、いつもつるんでいた三人組のうちの二人が私とアカネだ。
小学生の頃までは仲が良かったのだが、
【ある出来事】を境にどちらともなく距離を置くようになった。
──【ある出来事】っていうのは──
私の崇高かつ高尚な考え事はアリサのスライディングアタックによって
完璧に吹き飛ばされた。
……横から突っ込んでこないでよ……
横腹が痛いじゃんか……。
美麻アリサ。
元気に跳ねる彼女はクラスのマスコットキャラとして親しまれている。
私の親友であり、噂好きなところがあって耳が早い。
なんとなく予想はつくけど。
……。
あれからすぐにその場を後にしてプリントを届けに行った。
自分の顔の印象が薄いことはわかっているし、
あまり覚えられてないだろうと思っていたのだが……。
どうやら、それは甘かったらしい。
人気者ねぇ……。
女子人気は勿論のことだ。
あいつの女遊びはよく見かける。
告白は全て蹴っているようだけど
遊ぶぶんには問題ないらしい。
遊ぶから好きになられるんだよ。
美少女侍らせちゃってさぁ。
基本的に人当たりも悪くないので男子人気もあるのだろう。
地味な私とは正反対だ。
答えるつもりはない。
下手なことを言って広まったら困る。
時間を潰してほとぼりが冷めるのを待つばかりだ。
じゃあ、ジュース奢ってね、と笑うアリサ。
彼女の影響力はクラスに止まらない。
コミュ力の高いアリサならば、噂を鎮火してくれることだろう。
だけど、私はまだ。
どこか『那津岡アカネ』の影響力を舐めていたのだ。
まさか、こんなことになるとは、思わずに。
───
放課後。
帰宅部の私は早々に荷物をまとめると、階段を下りていた。
すると、後ろから思いきり突き飛ばされたのだ。
あぁ、ヤバイと思いながら他人事のように体が浮遊するのを眺めていた。
後ろを振り返ればさっきの女子生徒が逃げていくところだった。
ここは人通りが少ない。
目撃者はいないだろう。
彼女だって退学になりたいわけではないのだ。
体は重力に従い、落下して──
ドスン!!
誰かを踏み潰しちゃった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。