──そんな、ミキ達を、遠くで見守る人がいた。
艶のある黒髪をかきあげれば、周囲にいた女子生徒が顔を赤くする。
漂う色香にあてられて、ふらつく者まででる始末だ。
だが、さしてそのことを気にする様子もない。
アカネの目にはいつだって。
ミキしかうつっていないのだから。
──
音静くんとばったり靴箱で会ったので、
一緒に帰ることにした。
すごい偶然だけど、一緒に帰るのは三日連続だ。
高校と中学の校舎は離れているし、クラスのホームルームの長さもまちまちだ。
特定の人と三日連続で会うことになるとは思ってもいなかった。
悪戯っ子のような笑みを浮かべて、音静くんが私の側に寄る。
仄かに石鹸の匂いがした。
アカネと違って背がそんなに高くないので、顔がより近い。
美形に側に来られると、心臓がドキドキしてしまった。
黙った私を不思議そうに見上げる音静くん。
音静くんの手が額に触れた。
ひんやりしていて気持ちがいい。
だけど、男子耐性のない私は、触れたところがものすごく熱く感じて、ぎゅっと目をつぶってしまう。
ドキドキしておかしくなりそうだ。
心臓の音が聞こえてしまっていそうで──
ちゅ。
ふにゃりとした柔らかい感覚。
すぐに離れたけど、それは。
急にアカネが間に入ってきた。
目を開けば、そこにはアカネの大きな背中がある。
私を守るように立っているアカネの耳が、真っ赤に染まっていた。
へらりと笑う音静くん。
私は、あまりの出来事に狼狽えていて、口をぱくぱくさせるだけ。
声が出なかった。
ただ、なんだか心臓がおかしくなりすぎて怖かったから。
目の前にあったアカネの制服をちょんとひっぱる。
あまり刺激しないように、そっとしたつもりだったけど、思ったよりも強く引っ張ってしまったのか、アカネはびくっとしてますます耳を赤くさせた。
顔は見えないけど、ものすごく赤くなっているんじゃないだろうか。
二人の会話が刺々しい。
私の知らないところで、知らない話がされている。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。