「あんたがあたしの青春を壊したのよ!」
噛みつくような台詞は、今も耳にこびりついている。
「あんたが……あんたがあんたがあんたが! あたしの学園祭に来たから!」
近所のお姉さんと私は仲が良かった。
アカネとお姉さんと私。三人でよく遊んだものだ。
お姉さんは高校生で、私たちはまだ中学生だったから、お姉さんは大人っぽくて憧れていた。
だけど。
「ごめんなさい……」
「そういう! そういうところがずっと大嫌いだったっ! 男どもをその綺麗な顔で侍らせてっ! まさか年上にまで手を出すなんて!」
なぜ怒鳴り付けられているのかわからない。
嫌いだと言われて悲しくて、涙が出そうだった。
「あんたが来たから、あたしの好きだった男子も憧れの先輩も可愛がっていた後輩も……! みんなみんなあんたに惚れた! 最悪よ! あたしの青春を返してよ!」
お姉さんが手を振り上げた。
そのまま私に拳をおろそうとして──
「ほら! 今だって! 男に守られてばかりで!」
私を庇うように、アカネが立っていた。
「……」
「嫌い嫌い嫌い! あんたたちみたいに顔が整っているやつは大嫌い! 心の中であたしを嘲笑っているんでしょう? お守りを言いつけられてずっと嫌だった。ご近所さんだからってなんで一緒にいなくちゃいけないのよ! あたしはあんたたちの引き立て役じゃないのに!」
お姉さん。
すごく怒っている。
アカネも私も大嫌いだって。
「もう……嫌。なんで我慢ばかりしなくちゃいけないの? あんたたちなんて、事故にあっちゃえばいいんだ。ぐちゃぐちゃの顔になっちゃえ。大嫌い」
でも。私は。
優しいお姉さんのことが。
「私は大好きだよ。お姉さんとアカネと、三人で過ごした思い出があるもの」
「俺もだ。とても楽しかったから……」
「そういうところ、本当にバカよね」
冷めた声。
「あははははははははは! 楽しかった? よかったよかった、あたしも頑張って演技した甲斐があるよ! 言ったでしょう? あんたたちのことは会ったときから大嫌いだって!」
えん……ぎ。
大切な思い出が。
ガラガラと崩れ落ちていく。
目の前が真っ暗になっていくようだった。
「あんたたち、あたしの許可もなしに楽しい青春なんて送らないでね? わかってるよね? あんたたちのせいであたしの青春はめちゃくちゃなのに、なんであんたたちが幸せになるの? なれると思っているの? 一人の人生を……青春を……めちゃくちゃにして、ぐちゃぐちゃにして、それでまだのうのうと暮らせると思ったら大間違いだから!」
お姉さん、とまた。
声を出そうとして。
言葉は喉の奥で止まってしまう。
肉食獣のような瞳で、私達を睨み付け、お姉さんは高らかに笑った。
「あたしは、絶対、あんたたちを許さない!」
そして、お姉さんは。
思い出のたくさんこもった川に、身を投げた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!