一命をとりとめたものの、お姉さんは目覚めなかった。
ベッドに横たわる姿は、今にも儚くいなくなってしまいそうで。
不安で不安で──胸が締め付けられた。
音静くんと二人で、しばらく雨音を聞いていた。
私の目立ちたくないという頼みを聞いて律儀に学校では話しかけず、
ここまでついてきていたらしいアカネが私たちの側に来る。
私の腕を引き、アカネはちょっと眉をひそめる。
なによ。
ぐい、と乱暴に目元を拭われた。
……どうやら、私は泣いていたようだ。
気づかなかった。
音静くんがぐっと唇を噛んで、私の裾を引いた。
うーん。
手をふり、別れを告げようとして。
急にアカネが音静くんに言葉を投げた。
確かな怒りがそこにあって。
音静くんが何かを言う前に、アカネが私の手を再び引いて歩き出す。
力が抜けてしまった。
傘をさすのも億劫だったから、肩を寄せて傘にいれてもらった。
横を見れば、アカネの頬がほんのり赤い。
……あ、これ。
口に出した途端、恥ずかしくなってしまった。
私まで赤くなってしまって、慌てて自分の傘をさす。
アカネが私の鞄に何かをねじこんだ。
取り出してみれば、ミスターコンの前席チケットだった。
出場者が家族や身内に渡すために配られているとは聞いていたが。
なによ、それ。
変だよ。
意味がわからない。
でも。
最近、唐突だよね。
私はなによ?まだなにかあるの?と聞きながら、アカネの顔を見る。
悔しいくらいに整っているし、女子がキャーキャー言うのもわかる。
子供っぽい、泣き虫だ、って言われたような気がして、かっと顔が熱くなる。
アカネは私と違うもの。
お姉さんのことを引きずったりしていないし、もう前を向いている。
私はあんな風になれなかった。
またバカって言った!
もう。アカネなんて知らない。
ふん、と鼻息荒く足を踏んでやる。
アカネは軽く避け、私にまたバカと言った。
ほんと、ムカつく。
そういえばこいつは、ずっと前からムカつくやつだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。