踏み潰したお詫びにジュースを奢り、公園のベンチでしばらく話をしていた。
音静チヅルくん。
中学三年生。
中高一貫だから珍しいことではないけど、
高校校舎に用があって階段を上っていたところを激突してしまったようだ。
同級生と違って、私と同じくらいの身長。
ほのぼのした雰囲気に癒される。
力こぶを作って見せるが、
なんだか頼りない筋肉がぽこっと出ただけだ。
こういうのは後腐れがないほうが良い。
事務的に連絡先を渡すと、音静くんの顔が綻んだ。
可愛らしく喜ぶ後輩。
んー、こんなのが部活生は毎日見られるのね。
ちょっと羨ましいかも。
でも、話題って……。
噂の広がり方が半端ない。
まさか中学までいってるとは。
美人な先輩……?
なるほど、さすがにアカネとどうたらという噂はまだ広まってないらしい。
じゃあこれはお世辞だろう。
チヅルくんが立ち上がる。
んー、ありがたい申し出だけど。
私はいつもより遅くなってしまった帰り道を歩き始める。
綺麗な夕焼けだ。
──振り返ることはなかったから、気づかなかった。
先程の小動物のような雰囲気から一変。
黒い笑みを浮かべる後輩のことを。
──
家の前で呼び止められる。
塀にもたれかかるようにして、アカネが待っていた。
幼馴染みだ。
一応大切には思っているし、こんなに目立つやつじゃなければ
もうちょっと仲良くしても良いと思っていた。
だけど、今日のあれは酷い。
いくらなんでも、謝辞のひとつくらいはあってもいいと思うんだ。
素直に謝られると毒気を抜かれた。
私はこいつのせいで女子の妬みの標的にもなったわけだけど、
その全部がこいつの責任ってわけじゃない。
悪いのは突き飛ばした女子だし
ぼーっと階段を下りていた私も悪い。
もう少し危機感を持つべきだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!