第17話

手作りのカレー
7,224
2021/05/30 20:56
月島「っ、…で、なんでキミはここに居るの?」


月島くんは私と目も合わせようとせず、パッと月島くんのジャージの裾を握っていた私の右手を払った。




あなたのあなた「……実は、探してる物があって。」



バレーって単語を出したら、この人の反応はどうなるんだろうか。それ以前にバレーに関しての関わりを烏野であんまり持ちたくなかった。




月島「…それって、コレだったりする?」




ポケットの奥から月島くんが取り出したのは、昨日の雨に濡れた後に乾いたからか、表面が少し固い、バレーのボールのストラップだった。




それは、紛れもなく私が常に持ち歩いていた_______





あなたのあなた「!!…それ!っでも、なんで月島くんが……」




月島「…昨日、湖の近くに落ちてたんだよ。」



あなたのあなた「そっかぁ…、良かった……っ」




私は、月島くんからお守りを受け取ると、自分の手のひらの中に包み、ぎゅっと両手で握りしめた。




気づくと、こぼれ落ちた雫がジャージに染み込んでいて、ジャージの色の赤みがさらに濃くなっていた。その事に気づいた瞬間、抑えが聞かなくなった。




……自分で思っていた以上に、コレが無くなったことショックだったんだな。




月島「…!っ、ちょっと、なんで泣いて________」




あなたのあなた「…うぐっ、、ごめっ……ん、ヒック………っもうちょっと、、したらっ…戻るがら……、、」





______先に行ってて。
その言葉を発しようと大きく息を吸い込んだ瞬間、









ぎゅっ、








さっき、転んだ私を庇ってくれた時よりも、ふんわりと優しく私を包み込んだ。






月島「……涙拭きなよ。落ち着くまでこのままでいいから。」





月島くんの高身長故に、抱きしめられると私の顔はすっぽりと月島くんの胸の中に収まってしまった。








……よく分かんない。




あんなに私に悪態ついてたのに、今はこんなにも優しくて。




私だって、みんなに対して真面目ないい子で居ようとしていたのに、結局月島くんの前では上手くいかなくて。




でも、今はそんなこと考えてないで、月島くんの厚意に甘えるべきだとも思った。




私は、月島くんの胸に頭を預けて、落ち着くまでの間、そこに顔を埋めた。















〜月島side〜


ジャージの右胸辺りに、キミの涙が染み込んでいくのが伝わってくる。





_______涙って、こんなに温かいんだ…





けど、そのぬくもりに反して、キミは、表情には表れない…何か奥がある、ここに来た時そんな含みを込めた笑みを僕に向けていた。






昨日、バンガローであんな言い方をされてからというもの、キミに振り回されるのは面倒に決まってる、イライラしながら心底そう思っていた。






けど、いざとなると…やっぱり考えてしまうのは、キミのことだった。




昨日ことがあっても、今日途中からキミが居なくなって、集中がぷっつりと切れて心が騒がしくなった。












委員長って肩書きがあって、真面目で





基本クラスの皆と話せるけど、あの2人ですら深く関わっていないように、僕は感じ取られた。




思い立ったらすぐ行動する、動物のような単純性もあったり







『月島くんが思っているほど、私優しくないし、いい子じゃないよ?』






いい子だとか、悪い子だとか……、僕の中ではさほど気になる要因ではなかった。








あなたのあなた「…ごめん、もう、大丈夫っ、、だから……っ」




……大丈夫ってのは、もう少し落ち着いた事を言うと思うけど。




月島「…僕の前では強がんなくていいじゃん。」






ただ純粋に、白布あなたのあなたっていう人物に、





頼られたくて、





傷付いてる顔は何だか見たくなくて、













奥に何かを隠したあの表情の真意を知りたくて、





でもそれは、ただの興味本位なのか、別の意味なのか、自分でもよくわかっていないけど。……いや、僕が認めたくないだけかもしれないけど、、







それでも、今は弱ったキミを助けたいと思ったから。








僕はまた、キミのその小さな頭を不規則にポンポンとした。





ジャージの右胸辺りが、さらに温かくなった気がした。














〜あなたのあなたside〜



莉音「あ!あなたのあなた〜!!どこ行ってたのっ!?」




あなたのあなた「ごめんっ、心配かけて……」




キャンプ場に戻るなり、仁王立ちで腕を組んで私を待っていたであろう莉音が、大黒柱のような貫禄を出した。




詩織「カレー、もう出来てるよ。ほらー、早く食べよ!」





心配してくれる人がいてくれること



ご飯を作って待っていてくれること





皆「いただきます!!」




1口、パクッとカレーを頬張る。




………………………………………、






前園「ん!結構いいんじゃね?」




山口「美味しいよ、すごく!!」



詩織「男子たちの、火起こしと飯盒炊飯あってのことだよ笑」



莉音「ね、あなたのあなた!美味し_______」





莉音が、言葉を詰まらせた理由は、私が1番よく分かっていた。




莉音「!?な、泣いてる……、?( ゚д゚)ハッ!なんか、悪いもんでも入ってた!?」





涙目の私を前にして、オロオロする莉音の言葉を、頭をフルフルと横に振って否定した。





あなたのあなた「違うの……、人が作ってくれたご飯を食べるの、久しぶりで…。」





お母さんが亡くなって以来、毎日私がご飯を作っていた。もちろん苦ではなかったし、私自身お料理に関わることは好きだった。




けど、時々無性に恋しくなる。お母さんの作ってくれたオムライスの味が、年々思い出せなくなっていく。





それでも、毎日作り続けた。



だからこそ、他の人が私にご飯を作ってくれたっていうのには全然慣れてなくて、だからこそ、いつも人前で出さないであろう涙を流して、







あなたのあなた「すっごく美味しい。_____みんな、ありがとう…。」






こんな、優しくて暖かい居場所に、どうしようもなく甘えたい自分がいることを、認めざるを得なかった。






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