??「........ぃ......おーい、あなたのあなた?」
ポンポンと優しく肩を叩く感触と、耳元にじんわりと響く私を呼ぶ声。
眠気で深い霧がかかっていた脳がゆっくりと覚醒する。
あなたのあなた「ん..........ぅ、」
??「ほーら、もう宮城着いたよ。」
薄暗い車内の照明の光が目の隙間に差し入ると、私は睡魔への抵抗を諦めてゆっくりと瞳を開いた。
あなたのあなた「.....菅原せんぱい、?」
菅原「もう...しょうがないなぁ。」
やれやれと呆れたように苦笑する先輩は、私が目を覚ましたことを確信すると今度はちょっと力を強めて頭を撫で回した。
菅原「こら。早く起きないと大地に怒られるぞー」
澤村「誰が何するって?」
菅原「やべっ」
目を開いた先でひょっこりと視界に入り込む澤村先輩と、ぎくりと慌てた表情の菅原先輩が私の顔色を覗き込む。
あなたのあなた「...すみません、だいぶ寝ぼけてました。」
澤村「いいっていいって。マネ業務も疲れたろうし、休める時にしっかり休みなさいよ。」
菅原「ちぇー...大地ってばあなたのあなたにばっか甘すぎっ」
椅子から起き上がらせた私の耳元で不満をぼそぼそと呟く先輩に、今度は私が苦笑を浮かべる。
すると先にバスから降りかけていた澤村先輩はゆっくりと振り返り、表面上だけ和やかな笑顔をこちらに向けた。
澤村「スガ?」
菅原「ナンデモナイデス」
...澤村先輩こそ、この移動中だけでもちゃんと休めていたならいいけど。
7日間丸々合宿というハードなスケジュールをこなした後とは思えない、いつもの主将の背中は何だか合宿前よりも大きく見えた。
烏養「とりあえず明日は1日オフだからな。しっかり休んで疲れ取っとけよー」
コーチのその言葉と澤村先輩の挨拶によって、長かった東京遠征がようやく終了した。
みんなの顔を見渡せば、いつも元気な日向もさすがに疲れているようで、田中先輩も西谷先輩も欠伸を浮かべている。
自転車で帰るという日向に「気をつけてね」と別れを告げて、私も心配かけないように早く帰ろうと校門を向いた時、
月島「遅い」
その言葉と共に、頭の上が大きな手のひらに覆われる。
そのまま彼によって頭を後ろにぐいっと傾けられ、後頭部に硬い何かが触れた。
トクントクン……
心地よいリズムの心音が振動となって微かに耳に響く。
その状態になってようやく、私の頭が彼の胸に押し付けられているのだと自覚したのだった。
月島「君もしかしてまだ寝ぼけてるの?」
あなたのあなた「ちゃんと起きてるけど...」
月島「だったらさっさと帰る支度くらいしなよ、日向よりもよっぽど君の方が危なっかしいんだから。」
あなたのあなた「えぇ……?」
月島くんこそ寝ぼけてる(?)のか、いつも以上に毒気が凄いんですけども。
にしても、日向には失礼だが日向以上に危なっかしいと言われたのはさすがに抗議したい。
その衝動のままに、私は月島くんの手のひらから抜け出すと、ぐるりと180°振り返って彼を仰ぎ見た。
うっすらと細められた瞳は、いつもの鋭く冷たい光を閉じ込めたままで。
月島「...送ってくって言ってる意味、わかんないの?」
どこか素直な月島くんは、やっぱり寝ぼけてるんだと思う。
そんな彼と2人きりの帰り道。
あなたのあなた「.........」
月島「.......」
眠気か若干の気まずさからか、歩く夜道は終始静かだった。
でも何も言わなくても、彼の隣では不思議と自然体でいられた。今もそう。
ほぼ強制的に連れ出されたのに何も言葉を発しない気まずさを感じながらも、落ち着ける何かがあった。
私たちの隙間に風が吹き、ざぁぁ...と木々が揺れる音が周囲から聞こえる。
その風の強さが、微妙に空いた私たちの距離感を体現しているようだった。
あなたのあなた「......あ、」
無言で地面とばかりにらめっこしていると、アスファルトにうっすらと私たちのシルエットが浮かんだ。
ふいに夜空を見上げると所々に雲が散らばっていて、その隙間から月が覗いていた。
月島くんも私の声につられたのか、隣で顔を上げるのを横目に見ると「...1週間前と同じだね」と私は呟いた。
東京遠征2日目の夜。月島くんと山口くんが口論になった時も、同じように月が彼らを照らしていた。
それでその後、何故か私を引っ張って第3体育館に連行されて、それから木兎さんが言ったんだ、
「それが、お前がバレーにハマる瞬間だ!!!」
あなたのあなた「...あっという間だったよね、東京遠征。」
月島「1週間丸々合宿とか、二度と御免だけどね。」
木兎さんの言葉を思い出し、自然とそう月島くんに話しかけていた。そして返ってきた月島くんらしい感想に、くすりと笑みが零れてしまう。
そんな私の様子を見て顔を顰める月島くんに対して、私は誤魔化すように会話を続けた。
あなたのあなた「そうは言っても今までにないくらいバレーに集中してたよね、自主練だって毎日行って!」
月島「調子乗らないでくれる?」
知ってる、これは月島くんなりの照れ隠しだ。
知らない頃...出会ったばかりの頃は、こんな月島くんにそれはそれは恐れていただろうな...なんて懐かしい目になる。
それほどに月島くんと仲良くなれたことが嬉しい。こうやって心配してくれて送ってくれたり、2人きりて隣を歩くことを許してくれるくらいに、彼もまた私を受け入れていることも。
あなたのあなた「......月島くん、」
私の呼びかけに、こちらに視線を向ける気配がした。
数歩先に歩くと、くるっと振り返って彼と向き合い、目を合わせてにこっと笑った。
私の胸を熱くさせた、あの興奮と喜びを伝えるため、これでもかってくらいに笑って、
あなたのあなた「今日の試合、カッコよかった!」
ほんの一瞬メガネの奥の彼の目は驚いたように大きく開く。
そして立ち止まっていた彼は何を思ったのか、ゆっくりと私との距離を詰めた。
私がその表情を見ようと顔をぐいっと見上げた直後、彼の長い指が私の頬に触れ________
あなたのあなた「っ...いひゃい!いひゃいって!!」
あろうことか私の両頬を摘んでぐいっと横に引っ張ったのだった。え、そんな空気だった?何でいきなり?
私の頭の中で疑問と不満がぐるぐると渦巻き、抗議するように視線を月島くんに向けると、彼はすんなり手を離してくれた。
なんだったんだ...と呆気にとられながら、自分で頬に触れてちぎれていないことを確認していると、私に背を向けた彼が呟いた。
月島「......馬鹿なんじゃないの。」
その大きな背中の向こうで、彼が今どんな顔をしているかは分からない。
けど、私の言葉が伝わっていることは確かなんじゃないかって思えたから。
私は笑顔を消さずにそのまま彼の隣に駆け寄り、月光に照らされた影を彼のそれに重ねる。
影になった私たちでも変わらないその身長差を眺めながら、残りの家路をゆっくりと歩いた。
.....................................!作者より!.......................................
こんばんわ!またまたお久しぶりのなのちゃん🍯🥜です。
なんかね...もう私は有言実行できないタイプの人間なんだきっと(今更)。みんなご承知の上お付き合いください🙇♀️
これにて本当に東京遠征編終了です!
そして本来ならこの後、兵庫出張夏休み編をお送りする予定でしたが、作者の勝手ながらの都合で端折らせていただきます...
楽しみにしていた皆さんごめんなさい.....
もし作者が春高全国編を書く余力がありましたら、その時に宮ンズや我らが(?)北さんの登場をお待ちください🙏
《衝撃の事実》
実はこのシリーズここからが本番なんです!!!
このシリーズを書こうと思い立ったのは忘れもしない、去年の白布くん誕生日前でした。
その時に書きたかった展開を、実は未だに書けてないんですよね...(衝撃の事実(2回目))
その展開を書きたいがための伏線や状況をつくるのに、実に1年以上(の約半分はサボってましたが)も費やしてしまいました😅
でもまたここに戻ってこようと覚悟できましたので!どうぞここからは作者の自己満展開になりますが、読んでくださいね〜👋
きっかけをくれたるぅ🎧🧩さん、ありがとうございます✨
そしてそして!いつの間にか♡10000目前になりました!
☆ももう少しで1000!こんなに多くの人に見てもらえるとは思っていなかったので本当に感無量です😭
この半年おサボりマンだったのに新規さんもこの作品を見つけてくださりありがとうございます🙇♀️
それでは後半戦のはじまりはじまり〜
サブタイトルは________
“初恋(仮)との再会編”!!!
これだけ期待させといて更新マイペースになる可能性も捨てきれないのが、作者の悪い所です...。
自覚症状アリなので多めに見てやってください💦
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。