あなたのあなた「日向くん、影山くん。私で良ければ勉強教えよっか?」
私がそう声をかけると、2人して驚いた表情を浮かべた。
日向「え…いいの!?」
あなたのあなた「実は私も澤村先輩から、2人の勉強見るように頼まれてて…」
影山「あざっす!」
2人がいそいそと椅子を持ってくるので、私も2人が持ってた英語の教科書類を机に広げる。
月島「…ちょっと、ここで勉強しないでくれる?」
あからさまに不機嫌そうな表情で私を見下ろす月島くんは、ヘッドホンを外しながら私にそう告げる。
あなたのあなた「えー…でも、ここ私の机だし…。」
日向「そーだそーだ!月島くんの方がジャマだぞー!」
そう囃し立てる日向くんを月島くんはギロッと睨むと、日向くんは「ヒッ…」と喉から悲鳴を上げた。
あなたのあなた「……なら、月島くんも勉強しない?」
月島「は、?」
あなたのあなた「ほら、私も教えてほしい所あるし…みんなで勉強会にしよ!」
私がそう提案すると、月島くんはさっきまでの仏頂面が少し和らぎ、首にかかったままのヘッドホンに手をかける…が、
影山「いや、営業時間外らしいからコイツは無理だろ。」
影山くんの一言で、その動きがピタッと止まった。
日向「確かに!さっきそう言って俺らの勉強教えるの断ったもんな!」
……月島くん、何とも言い難いような顔してるなぁ…。
けど、そういうことならしょうがない、と私も割り切って考え、「そっか。なら仕方ないね」と言って身体の向きを机を挟んで正面に向かって座った2人に向ける。
あなたのあなた「分からないとこって…どの辺り?」
日向「んーと…ここ!レッスン3のとこ!」
そう言われて、ページをパラパラとめくり探していると、広げた教科書にぬっと大きな影が現れる。
そう気づいた瞬間、教科書を取り上げられて頭上からボソッと呟かれる。
月島「……白布さんに教えるだけだからね。」
そう言って、月島くんは教科書の平らな部分で私の頭をペチッと叩いた。
影山「…そういや、月島はなんであなたのあなたのことまだ“白布さん”呼びなんだ?」
ふと疑問に思ったのか、勉強する手を止めてそう聞く。
あなたのあなた「いや、別に強制じゃないし…月島くんが呼びやすい呼び方でいいと思うよ。笑」
苦笑しながらも、実は内心私も結構気になっていた。
個人的には1年生の中で一番話すと思うし(話しやすいNo.1は日向くんか山口くんだけど)、隣の席だし…
他の部員の人たちと比べて、距離を置かれているように私は感じてしまっていた。
月島「……王様に関係ある?」
敢えて、月島くんの表情を見たい…という思いを抑えて黙々とノートとにらめっこしていると、横からそんな言葉が聞こえた。
その冷たい言い方は、いつもの口調と言ってしまえばそれはそれで納得いくが、若干…いつもより棘があまり感じられない声だったように感じた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。