第103話

勉強会
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2021/09/11 09:01



あなたのあなた「日向くん、影山くん。私で良ければ勉強教えよっか?」



私がそう声をかけると、2人して驚いた表情を浮かべた。



日向「え…いいの!?」


あなたのあなた「実は私も澤村先輩から、2人の勉強見るように頼まれてて…」


影山「あざっす!」



2人がいそいそと椅子を持ってくるので、私も2人が持ってた英語の教科書類を机に広げる。



月島「…ちょっと、ここで勉強しないでくれる?」


あからさまに不機嫌そうな表情で私を見下ろす月島くんは、ヘッドホンを外しながら私にそう告げる。



あなたのあなた「えー…でも、ここ私の机だし…。」


日向「そーだそーだ!月島くんの方がジャマだぞー!」



そう囃し立てる日向くんを月島くんはギロッと睨むと、日向くんは「ヒッ…」と喉から悲鳴を上げた。



あなたのあなた「……なら、月島くんも勉強しない?」


月島「は、?」


あなたのあなた「ほら、私も教えてほしい所あるし…みんなで勉強会にしよ!」



私がそう提案すると、月島くんはさっきまでの仏頂面が少し和らぎ、首にかかったままのヘッドホンに手をかける…が、




影山「いや、営業時間外らしいからコイツは無理だろ。」


影山くんの一言で、その動きがピタッと止まった。



日向「確かに!さっきそう言って俺らの勉強教えるの断ったもんな!」




……月島くん、何とも言い難いような顔してるなぁ…。




けど、そういうことならしょうがない、と私も割り切って考え、「そっか。なら仕方ないね」と言って身体の向きを机を挟んで正面に向かって座った2人に向ける。





あなたのあなた「分からないとこって…どの辺り?」


日向「んーと…ここ!レッスン3のとこ!」


そう言われて、ページをパラパラとめくり探していると、広げた教科書にぬっと大きな影が現れる。



そう気づいた瞬間、教科書を取り上げられて頭上からボソッと呟かれる。



月島「……白布さんに教えるだけだからね。」







そう言って、月島くんは教科書の平らな部分で私の頭をペチッと叩いた。









影山「…そういや、月島はなんであなたのあなたのことまだ“白布さん”呼びなんだ?」


ふと疑問に思ったのか、勉強する手を止めてそう聞く。



あなたのあなた「いや、別に強制じゃないし…月島くんが呼びやすい呼び方でいいと思うよ。笑」


苦笑しながらも、実は内心私も結構気になっていた。



個人的には1年生の中で一番話すと思うし(話しやすいNo.1は日向くんか山口くんだけど)、隣の席だし…




他の部員の人たちと比べて、距離を置かれているように私は感じてしまっていた。








月島「……王様に関係ある?」


敢えて、月島くんの表情を見たい…という思いを抑えて黙々とノートとにらめっこしていると、横からそんな言葉が聞こえた。





その冷たい言い方は、いつもの口調と言ってしまえばそれはそれで納得いくが、若干…いつもより棘があまり感じられない声だったように感じた。






















〜月島side〜




菅原「…よろしくな、あなたのあなた!」



あなたのあなた「…はいっ!」







あなたのあなたが本入部したあの日。



僕を始めとして、先輩たちもあなたのあなたの登場に驚く中…1人だけ、菅原さんだけはいつも通りで。






そう、嬉しそうにあなたのあなたに笑いかけた。






“あなたのあなた”と呼んで________










あなたのあなた「いや、別に強制じゃないし…月島くんが呼びやすい呼び方でいいと思うよ。笑」



控えめに笑いながらそう僕に言った言葉。



本音を言えば…そんなの、今すぐにでも呼びたいぐらいだ。



他の奴らがあなたのあなたと呼ぶだけで、内心イライラする。









「なぁ!4組の白布さん、3年の菅原って先輩とペアコスしてるらしいぞ!」




文化祭の日。すれ違いざまに僕の耳に入ってきたその事実。





…… 見たくなかった。信じたくなかった。













菅原「…後輩だからって、手加減する気ないからな。」




いつかの菅原さんの言葉が脳内に響き渡る。







僕が嫉妬してるだけの間に、菅原さんはどんどんあなたのあなたとの距離を確実に縮めていっている。










____取られたくない…僕だけのものにしたい。





ハッキリと明確にそう思えたのは、あなたのあなただけだ。




















あなたのあなた「…月島くん?」



反応のない僕を心配したのか、あなたのあなたは顔を覗き込んで僕にそう尋ねた。






…その表情ですら可愛いと思ってしまう僕は、相当重症なのかもしれない。




抱きしめたくなる衝動を抑えて、「…別に何も。」と感情を表に出さないように、無関心な態度をとる。






あなたのあなた「……そっか。」




少し寂しげに、悲しげにあなたのあなたがそう呟いたように見えたのは、僕がそう思いたいだけだからなのか…。











……けど、今はこのままでいい。




他の人がどんなにあなたのあなたって呼ぼうが我慢してやる。









いつか、僕が初めて“あなたのあなた”と呼んだときに、…あなたのあなたとの距離を近づけるために。





あわよくば、あなたのあなたが僕に“名前で呼んでほしい”って思ってもらえるようになるまで…








それまで、“あなたのあなた”呼びは取っておこう。






それだけあなたのあなたにとって、特別な存在になれるまで…。












































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