先生「おーい、帰るまでが研修だからな!気をつけて帰れよーっ」
学校に着いて、ざわめきが収まらない中で、先生が決まり文句な解散を言い渡すと、わらわらと人が門に向かっていった。
詩織「あなたのあなた、熱大丈夫…?」
バス中にずっと寝ていたのが心配をそうしたのか、詩織が私の目を覗き込んだ。
あなたのあなた「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね…」
詩織「そんなこと気にしないの!」
詩織のその言葉でちょっと吹き出すと、「笑うとこじゃないからっ!!」とさらに怒られた。
莉音「ねー、いつもより終わるの早いし、どっか寄ってかない?」
莉音はいつも通りのテンションで、逆に居心地がいい。詩織は、そんな莉音に
詩織「いや、あなたのあなたは熱あったんだよ?そんなに振り回しちゃ______」
と言いかけるけど、私がその言葉を止めた。
あなたのあなた「あぁ、熱は心配しなくても、いつも通り元気になったから!けど…、寄るとこあるからさ、今日はごめんね。」
そう言うと、2人は顔を見合わせ、
莉音「……、どこ行くの?」
と、心配そうな、ちょっと怪しむような目で聞いた。
あなたのあなた「いや、ちょっと買い出しに行くだけだから、心配しなくても平気だよ笑」
莉音「フツーに心配するから、それ!!」
詩織「……私もついてく。」
詩織の口からそんな言葉がこぼれた。さすがに莉音もびっくりしていたけど、勢いのついた詩織は止まらなかった。
詩織「ダメっていうなら、今日は私の家でご飯食べていってよねっ」
あなたのあなた「や!さすがに昨日熱出したのに、詩織の家にお邪魔するのは……」
詩織「…分かった?あなたのあなたも自覚あるならいいけど。無茶しちゃダメ!」
あなたのあなた「……はい。」
莉音「詩織のお母さん感がスゴすぎ笑」
詩織「当たり前でしょ?だって、あなたのあなたは大事な親友だもん」
当然のように、『親友』と言ってくれる詩織は、「ほら、連行するよ〜?」と笑いかけてくれて、そっと私の手をとってくれた。
嬉しくない訳ない。
こんなにも私のことを大切に思ってくれる友達が2人も居てくれて、
ほんとに、お母さんみたいに心配してくれて、
________だけど、だからこそ。
あなたのあなた「ちょっ、ちょっと…お近づき禁止!!2人に移ったらどうするのっ」
すくい上げてくれた手をスっと離し、冗談めかして何とか誤魔化す。
莉音「自覚あるなら、スーパーなんか行かないで、即刻家に帰りなさい!」
詩織「…………、」
………多分、詩織は気づいてる。私が詩織の手を拒んだことを。莉音は特に気に止めてなかったけど。
…………ごめんね。
自分勝手なのは、私が1番よく分かってる。けど……、やっぱり私はまだ、
信頼していた人が私から離れてく現実を、直視したくないから………。
________怖いの
〜詩織side〜
あなたのあなた「じゃあ、私ここの角曲がってすぐだから。」
あなたのあなたは私たちが持っていたスーパーのレジ袋を受け取ると、遠慮がちにこっちを見て、手を振ってくれた。
莉音「また明日ね〜!!」
詩織「無理しないでよー?」
あなたのあなた「了解!!2人ともありがとう〜」
あなたのあなたが角を曲がるまで、私は莉音とその背中を見送ると、くるっと向きを変えて来た道を戻る。
詩織「……『親友』って言葉、軽々しかったかな…?」
あなたのあなたと別れると、すぐにため息をついた。
莉音「別にそんなことないんじゃない?あなたのあなただって、そう言って貰えて嬉しかったと思うよ!」
詩織「…そうなんだけどさー、」
莉音「もしかして、あなたのあなたに手を払われたこと、気にしてる?」
詩織「気づいてたの?莉音…」
莉音「そりゃ気づいてるってww」
詩織「……恐れ入りました。」
莉音「ちょっちょっ、詩織の中であたしどーなってんの!?」
そんな冗談を交えるけど、終わった瞬間再び沈黙が続いた。
詩織「あなたのあなた、いつか私たちのこと『親友』って心から思ってくれるかなぁ…?」
莉音「……信じて待とう。あなたのあなたが私たちを必要としてくれるまで。」
詩織「私、そんなにお利口に待ってらんない…」
私は少しいじけたように言うと、莉音が私のほっぺをグニッと持ち上げて、表情を変えた。
莉音「だから、あたしたちがあなたのあなたが心開いてくれるまで、頑張んないと!」
詩織「……そうだね。」
莉音の明るい言葉で、幾分か元気が出てきた。
中学校からの付き合いの莉音は、普段は明るくおちゃらけてばかりだけど、実は芯はものすごく強くて、誰よりも他人を思いやれる子なのかも……、と本気で思った。
莉音「『あなたのあなたと親友になり隊』ここに集結!!」
莉音はそう高らかに宣言すると、青春ドラマの主人公たちのように、拳を力強く握りしめて、私に向けた。
いつもは、莉音のこういう所を制御してるけど、
今日ぐらいは、莉音のペースに巻き込まれてみたかった、というのが私の本音な訳で。
詩織「おー!!」
私もグッと拳を作ると莉音に向けて、軽く拳同士をぶつけた。
ぶつかった拳から、お互いのあなたのあなたを想う強い決意が流れ込んで来たように感じられ、
より強く、あなたのあなたの力になりたいと思わせるのだった。
…………………………!作者より!……………………………
詩織と莉音の中学校からの付き合い、というのの解説コーナー!!!
言葉のまんま、詩織と莉音が出会ったのは、中2の時。莉音が転校してきて、仲良くなった。
詩織とあなたのあなたとは、塾が同じだったため、お互い知っていた。といっても、塾に通っていた時から仲が良かった訳ではない。
高校で同じクラスになり、話すようになったって感じかなー?
ほんとは、4話のバスの中で説明してくれるはずだったけど、月島くんの毒舌が炸裂しちゃったもんで…( ˊᵕˋ ;)タイミング逃しちゃって( ˊᵕˋ ;)( ˊᵕˋ ;)
この後2話ぐらいは、別の胸キュンがやってくるよ〜!!お楽しみに\(❁´∀`❁)ノ
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!