私は、武田先生に退部届を渡したその足で教室に戻った。
ガラッ
莉音「あれ…、あなたのあなたおはよーっ。部活は?」
詩織「朝練抜けてきたの?」
不思議そうな顔で私にそう尋ねる2人に「ううん、今日はもう上がったの。」と答える。
莉音「どこか体調悪いの…!?」
あなたのあなた「違う違う笑…体調は悪くないし、心配しなくても大丈夫だよ。」
そう誤魔化した私に、詩織は「…何かあった?」と優しく聞いてくれる。
体調悪くないのに抜けてきたって言ったから、逆に心配させちゃったのか……。
あなたのあなた「何もないよ。ごめん、ちょっと着替えてくるね。」
笑顔を貼り付けてそう言うと、私は制服を持って更衣室に向かおうと廊下へと向かう。
莉音「……んなわけあるか、、」
莉音のボソッと呟く声が背中に刺さり、私の足が止まる。
詩織「莉音…?」
莉音「っ…なんもなかったらそんな顔しとらんやろ!?」
急に大声で怒鳴った莉音に、教室中の視線が集まる。
その目は、次第に莉音が怒鳴った相手…つまり私へと移っていった。
莉音「…なんで、何も言ってくれへんの?…っなんで困ってる時に頼ってくれへんの!?」
私の様子がおかしいことに、莉音が気づいていたことにも私は驚き、…こんなにも今まで我慢させてしまったことに罪悪感を覚えた。
あなたのあなた「………ごめん。」
莉音「別に謝ってほしいんちゃう!うちが聞きたいのは…」
あなたのあなた「……ほっといてよ、私のことなんか。」
私の独り言が、莉音の言葉をとめた。
さっきまでマシンガンのように私に怒っていた莉音は、急に黙り状態になって、詩織はそんな私たちを宥める。
詩織「ちょっ…2人とも落ち着いて……!」
莉音「……ふぅん、ならもうええわ。」
莉音の冷たい声に、心臓が冷えていく感覚が私を襲う。
莉音「せやったら、もうあなたのあなたのことなんか心配せえへん。自分がそうして欲しいんやろ?」
あなたのあなた「……………」
莉音の言葉に何も答えられないでいると、「…信じとったうちがアホやったわ。」と吐き捨てて、教室を出ていった。
詩織はそんな私と莉音に交互に視線を向け、慌てていて…
詩織「…ごめん、あなたのあなた。けど、莉音は本気であなたのあなたのこと心配してたんだよ?それは分かってあげて…!」
私にそう言い残すと、「莉音待って!」と叫びながら廊下を走っていった。
男子「え、なに…喧嘩?」
「西尾、やっぱ怒ると怖ぇ〜…」
女子「何なに、なんかあったの?」
「莉音と白布さんが揉めてたっぽくて…」
教室中がザワザワとうるさくなり、私は自分の居心地の悪さを感じた。
手に持っていた制服のワイシャツをぎゅっ…と握りしめ、私は教室から静かに出ていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!