第24話

バレーへの高揚感
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2021/06/16 21:15
あなたのあなた「山口くん!ちょうど良かった、探してたんだよ…!」



そう話しながらバックの中にしまった個包装のパウンドケーキを渡す。





あなたのあなた「これ、昨日のお見舞いのお礼。……ああいうの初めてだったから、結構嬉しかった笑」



山口くんは目を真ん丸にして、「え、俺ただついて行っただけだよ?」とブンブンと両手を振りながら受け取ろうとしなかった。




あなたのあなた「別にお金かかってないし、今日の部活でたくさん作りすぎて……、逆に貰ってくれる方がありがたいんだけどな〜」





……予想通り、山口くんは「そういうことなら…ありがとう、白布さん!」と言って笑ってくれた。





あなたのあなた「あと、さ……。山口くんって月島くんが何部か知らない?」





山口「あれ、言ってなかったっけ…?」





首を傾げるような仕草をすると、次の瞬間発せられた言葉に驚きを隠すので精一杯だった。








山口「俺もツッキーも、同じバレー部だよ?」












…………マジですか??





体育館に近づくと、聞き覚えのあるシューズの擦れる音が辺りにも響いていた。




山口「じゃあ、休憩とかのタイミング見てツッキー連れてくるから。それまで時間とか大丈夫…?」




山口くんの言葉に首を縦に振ると、体育館に足を踏み入れる山口くんの背中に「部活頑張ってね!」と声をかける。




体育館の入口ドアに手をかけ、こっちを振り向いて笑いかける山口くんは、いつも以上に生き生きとしていた。







山口「遅れてすみませんっ!」




??「おぉ、あったか?」



山口「はい。これが無いと明日ほんとに困るんで…ほんとにありがとうございましたっ」



??「よっし!山口も戻ってきたことだし……紅白試合やるぞ!!」



主将さんらしき人が、手をパンパンと叩きながらそういうと、奥の方から「試合っ!?よっしゃーーー!!!」と一際目立つテンションの高い日向くんが目に入った。





あ、そっか……、日向くんも影山くんも、バレー部って話してたもんね。




主将さん「今度の青城戦に向けて、試合形式のメニューもいつも以上に集中してけよ〜」




みんな「うっす!!!」







青城と試合……ってことは、烏野って相当な実力はあるってことなのかな……?去年の大会は、特別目立ってなかったのに。






ふとか細い視線を感じて、体育館のビブスを配っている集団の方を見ると、




山口くんが目で『ほんっとにごめんっ!』と必死に謝ってくれているようだった。





私も『全然気にしないで、頑張って!』と言う視線を、念を込めながら山口くんに向ける。








ピピーッ



??「木下、ナイッサー!!」



さっき山口くんと話していた主将さんらしき先輩がそう叫ぶと、コートの後方からコースを狙ったサーブが放たれる。




??「縁下ー!」



??「はいっ!!」



そのサーブを綺麗に拾い、銀髪のセッターの元へAパスが上がる。





??「田中!!」



レフトから、少し怖そうな丸刈りのスパイカーが助走をつけて床を蹴りあげる。





バシッ





??「なぬっ…!?」





その人が打ったストレートは、待っていたかのように、さっき山口くんと話していた主将さんらしき人が拾い上げた。





??「影山!」




日向「俺に持ってこぉぉぉい!!」





そこで、初めて日向くんと影山くんが同じチーム内にいることに気づいた。




と、同時に日向くんが以前言っていた事も、







『こいつセッターなんだけどさ、んもうめっちゃすげえの!』







…………まぁいくらスゴいっていったって、お兄ちゃんの方が上手いし。





それに、いくらセッターが良くても、烏野には信頼してボールを集められるエースがいない。コーチだって見受けられない。






そんな高校にお兄ちゃんたちが負けることなんかないだろうn______











バシッ!!









次の瞬間、私の思考回路を一刀両断するように切り裂く、見たこともないような速攻が一点をもぎ取った。












な、に………今の、






あんな、速い速攻見たことない…………っ







ブロックが追いつけない程の速すぎる速攻は、床に打ちつけられ、体育館にはボールが弾む音が響く。




??「日向ナイスキー!!」




日向「あざーっす!!」




日向くんは満面の笑みで先輩に応え、影山くんはじっと相手コートと自身の両手を見つめ、ローテに動いた。









私はというと……、体育館の入り口から覗いていた身を引いて、体育館の外壁に背中を預けてしゃがみこんでしまっていた…。







久しぶりにバレーを間近で見られたことへの高揚感、




日向くんの速すぎる速攻にまだ心臓のバクバクが止まんなくて、




烏野の秘密兵器であろうそんな速攻を、白鳥沢サイドの私が見てしまった焦りと申し訳を知られないようにと、思わず身を隠してしまった。










パワー、高さ、個々の技術、練習環境、そして何より牛島さんのような絶対的エースの存在……、





挙げようと思えば白鳥沢の方がいっぱい出てくるし、実際に勝つのは白鳥沢だ。











けど、この瞬間………おそらく、牛島さんでも、他の白鳥沢の部員でも勝てない“速さ”を目の当たりにした。











あなたのあなた「烏野…………、」









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