第81話

勝敗が決まる瞬間
3,673
2021/08/17 21:00


そこからは、互いに譲らず1点ずつ交互に取っていく試合展開となり、今のスコアは19-22。






一向に3点差は縮まらないままで、このままだと確実に負けてしまう…。








そう焦ったが、その後は苦し紛れのプレーでも、とにかくボールを“繋ぐ”ことだけが、みんなの頭の中にあるようで…、








田中先輩の足で自身のブロックフォローをし、なんとか伸ばした手で返した日向くんのボールが、運良くネット上を転がって青城コートに落ちた。



影山くんの強烈なサーブや、澤村先輩の根性のこもったレシーブ、田中先輩のスパイク…




青城のセットポイント時の、影山くんのワンハンドトスからの日向くんの中央突破の速攻…





伸ばして、伸ばして、ようやく掴んだ青城の背中は…










ピピーッ






あなたのあなた「これで、デュース…!」




空を切ることなく、見事に掴んでみせたのだった。










でも、“デュース”というその過酷な戦場を勝ち抜かなければ、ここで終わりだ…。





ベンチのみんなは、ドリンクをがぶ飲みしていて、ファイナルセットのデュースまでの過程で既にクタクタなのが感じられた。










ピッ






澤村「行くぞ!」



烏野「しゃあ!!」


タイムアウトがあけて、選手たちがコートへ入る。










先に25点目を取り、大手をかけたのは_______




日向「うおっしゃぁぁ!」




烏野だった。




でも、明らかに動き回ってる日向くんは、さっきのスパイクは打ちきれてなかったし…



スタミナ持つかな…と不安になる。






けど…!




滝ノ上「今度は…烏野が王手だ!」





でも、そのもぎ取った1点でさえ、青城に淡々と返されてしまう。






そんな状態が続き、デュースは31-31まで続いていた。



あなたのあなた「…こんな点数見たことない、」







しかし依然と烏野が有利な状況は変わらない__________







女子「及川くん、ナイスサー!」




ファンの子たちの声に焦って青城側のコートを見れば、岩泉さんと話している及川さんは笑っていて、






いつもの女の子たちに向ける笑みとは、周りの空気が全く違って…背筋がゾクッとした。









“恐怖”









ピッ









落ち着いた助走、一糸乱れぬ空中姿勢、弾き出される威力







バシッ






何とか拾い上げたボールは、青城コートに返っていく。




…なに、あの威力とコントロール。ファイナルセットのデュースで、今日見た中で1番良いサーブをここで打つの…!?







綺麗に上がったAパスは、レフトの反対、ライト…つまり、






あなたのあなた「……英!」




ストレートに打って英のスパイクは、影山くんのレシーブが捕らえきれず、再び青城コートに返る。






英「チャンスボール!」




……あんなにプレーに積極的な英、初めて見た。







だって、昔はあんなにインドア派で、自分の部屋に篭もりっぱなしで、運動できる癖に苦手で…





けど、今、目の前で再びトスが上がり助走を始める英は、







________そんな頃とは別人のようだった。









あぁ、英も変わるんだ。それで、自分の知らない所で変わっていかれるのって、…何でだか、こんなに寂しいんだな。








英のフェイントが決まり、ボールが静かに落ちる。













これで青城はマッチポイントとなり、応援席からは「あと1点!あと1点!」というコールが響く。










その青城コートを見ていた影山くんは暫し固まっていて。





……どうしよう、このままじゃ流れ一気に持っていかれてちゃう!でも、それ以前に何だか影山くんの様子がおかしい…










日向「影山サーン!」


何度も呼びかける日向くんに、嫌味ったらしく言ったその声でようやく我に返った影山くん。




日向「おい、まさかビビってんのか?だっせーっ」



その言葉で、影山くんはいきなり日向くんの両頬を片手で掴み、日向くんから「フガシッ」と声が漏れた。





澤村「すまん!影山。」



澤村「…次、絶対お前の所に、ボール返してみせる!」




主将は頼もしい笑みを浮かべながらそう言い、ベンチからも「影山ー!迷ってんじゃねぇぞー!」と声が上がる。





菅原「ウチの連中はー!」



影山「……ちゃんと、みんな強い。」


















こんなの見せられたら…




嶋田「うおっ…!白布ちゃん、なんで泣いて…」



あなたのあなた「〜っ…す、すみません…っ、」






じわっと浮かび上がる涙に、自分でも訳がわからなくて…とにかく涙を拭った。












やっぱり、私は烏野のバレーが好きだ。







お互いを支え合うようなバレーが、



チームとして成長していくようのバレーが、



繋いで、繋いで、みんなで1点を勝ち取るバレーが、







ハラハラして、その度に手に汗握って、…けどそれがスポーツの、バレーの面白さなんだ。






























あなたのあなた「っ、烏野ファイトーっ!」













私の声に、言葉に、驚いたように烏野のみんながこっちを見つめる。





日向「白布さんっ!?」


田中「え、本物…、?(←ふざけてません。脳と体力がクタクタで、真顔で言ってます。)」





コート内の反応は様々で、大事な場面で動揺させちゃったかな…と少し不安になっていると、









菅原「あなたのあなたーっ!しっかり見とけよー!!」




私の方を指さしながら、大声でそう叫んだ。









あなたのあなた「っ…はい!」







私は、まっすぐにその言葉に応えた。















ピーッ







西谷「さっ、こーーい!!」

田中「こいやァァ!!」

澤村「1本取るぞーっ!」

東峰「おーっ!」





及川さんの強烈なサーブが打たれる________






そう誰もが身構えてた瞬間、ボールは裏をつくようにネット際に落下し、澤村先輩がフライングでなんとか拾う。





乱れたレシーブを、影山くんがアンダーでレフトに託す。





東峰先輩のスパイクは、ブロックを弾いてブロックアウトになりかけるも、リベロが拾い、及川さんがオープントスでエースに繋ぐ。




岩泉「うぉぉ!」



そのスパイクを田中先輩が上げてみせるも、ボールはネットの上に上がり、そのまま青城にダイレクトで叩かれ____







西谷「おらぁぁぁ!」



西谷先輩がフライングで拾い、今度は烏野の攻撃となる、






影山くんが走って乱れたレシーブを追い、その間に日向くんが走り出す。





________トスを全く見ずに、上がると信じて、








あなたのあなた「いけっ!決まる…!!」














落下点に素早く回り込んだ影山くんは、腕から勢いを弾き出したような、変人速攻のあのトスを上げ________




















バコンッ




















3枚ブロックに阻まれたスパイクは、スローモーションで日向くんの後方に、放物線を描きながら落ちていき…















ドンッ









必死に手を伸ばす影山くん、西谷先輩、東峰先輩、の手は…無惨にもボールに届くことはなかった。


















ピーッ









歓声に包まれ、肩を組んだり仲間を称え合う青城と反対に、烏野はコートに這いつくばって微動だにしなかった。






































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