そこからは、互いに譲らず1点ずつ交互に取っていく試合展開となり、今のスコアは19-22。
一向に3点差は縮まらないままで、このままだと確実に負けてしまう…。
そう焦ったが、その後は苦し紛れのプレーでも、とにかくボールを“繋ぐ”ことだけが、みんなの頭の中にあるようで…、
田中先輩の足で自身のブロックフォローをし、なんとか伸ばした手で返した日向くんのボールが、運良くネット上を転がって青城コートに落ちた。
影山くんの強烈なサーブや、澤村先輩の根性のこもったレシーブ、田中先輩のスパイク…
青城のセットポイント時の、影山くんのワンハンドトスからの日向くんの中央突破の速攻…
伸ばして、伸ばして、ようやく掴んだ青城の背中は…
ピピーッ
あなたのあなた「これで、デュース…!」
空を切ることなく、見事に掴んでみせたのだった。
でも、“デュース”というその過酷な戦場を勝ち抜かなければ、ここで終わりだ…。
ベンチのみんなは、ドリンクをがぶ飲みしていて、ファイナルセットのデュースまでの過程で既にクタクタなのが感じられた。
ピッ
澤村「行くぞ!」
烏野「しゃあ!!」
タイムアウトがあけて、選手たちがコートへ入る。
先に25点目を取り、大手をかけたのは_______
日向「うおっしゃぁぁ!」
烏野だった。
でも、明らかに動き回ってる日向くんは、さっきのスパイクは打ちきれてなかったし…
スタミナ持つかな…と不安になる。
けど…!
滝ノ上「今度は…烏野が王手だ!」
でも、そのもぎ取った1点でさえ、青城に淡々と返されてしまう。
そんな状態が続き、デュースは31-31まで続いていた。
あなたのあなた「…こんな点数見たことない、」
しかし依然と烏野が有利な状況は変わらない__________
女子「及川くん、ナイスサー!」
ファンの子たちの声に焦って青城側のコートを見れば、岩泉さんと話している及川さんは笑っていて、
いつもの女の子たちに向ける笑みとは、周りの空気が全く違って…背筋がゾクッとした。
“恐怖”
ピッ
落ち着いた助走、一糸乱れぬ空中姿勢、弾き出される威力
バシッ
何とか拾い上げたボールは、青城コートに返っていく。
…なに、あの威力とコントロール。ファイナルセットのデュースで、今日見た中で1番良いサーブをここで打つの…!?
綺麗に上がったAパスは、レフトの反対、ライト…つまり、
あなたのあなた「……英!」
ストレートに打って英のスパイクは、影山くんのレシーブが捕らえきれず、再び青城コートに返る。
英「チャンスボール!」
……あんなにプレーに積極的な英、初めて見た。
だって、昔はあんなにインドア派で、自分の部屋に篭もりっぱなしで、運動できる癖に苦手で…
けど、今、目の前で再びトスが上がり助走を始める英は、
________そんな頃とは別人のようだった。
あぁ、英も変わるんだ。それで、自分の知らない所で変わっていかれるのって、…何でだか、こんなに寂しいんだな。
英のフェイントが決まり、ボールが静かに落ちる。
これで青城はマッチポイントとなり、応援席からは「あと1点!あと1点!」というコールが響く。
その青城コートを見ていた影山くんは暫し固まっていて。
……どうしよう、このままじゃ流れ一気に持っていかれてちゃう!でも、それ以前に何だか影山くんの様子がおかしい…
日向「影山サーン!」
何度も呼びかける日向くんに、嫌味ったらしく言ったその声でようやく我に返った影山くん。
日向「おい、まさかビビってんのか?だっせーっ」
その言葉で、影山くんはいきなり日向くんの両頬を片手で掴み、日向くんから「フガシッ」と声が漏れた。
澤村「すまん!影山。」
澤村「…次、絶対お前の所に、ボール返してみせる!」
主将は頼もしい笑みを浮かべながらそう言い、ベンチからも「影山ー!迷ってんじゃねぇぞー!」と声が上がる。
菅原「ウチの連中はー!」
影山「……ちゃんと、みんな強い。」
こんなの見せられたら…
嶋田「うおっ…!白布ちゃん、なんで泣いて…」
あなたのあなた「〜っ…す、すみません…っ、」
じわっと浮かび上がる涙に、自分でも訳がわからなくて…とにかく涙を拭った。
やっぱり、私は烏野のバレーが好きだ。
お互いを支え合うようなバレーが、
チームとして成長していくようのバレーが、
繋いで、繋いで、みんなで1点を勝ち取るバレーが、
ハラハラして、その度に手に汗握って、…けどそれがスポーツの、バレーの面白さなんだ。
あなたのあなた「っ、烏野ファイトーっ!」
私の声に、言葉に、驚いたように烏野のみんながこっちを見つめる。
日向「白布さんっ!?」
田中「え、本物…、?(←ふざけてません。脳と体力がクタクタで、真顔で言ってます。)」
コート内の反応は様々で、大事な場面で動揺させちゃったかな…と少し不安になっていると、
菅原「あなたのあなたーっ!しっかり見とけよー!!」
私の方を指さしながら、大声でそう叫んだ。
あなたのあなた「っ…はい!」
私は、まっすぐにその言葉に応えた。
ピーッ
西谷「さっ、こーーい!!」
田中「こいやァァ!!」
澤村「1本取るぞーっ!」
東峰「おーっ!」
及川さんの強烈なサーブが打たれる________
そう誰もが身構えてた瞬間、ボールは裏をつくようにネット際に落下し、澤村先輩がフライングでなんとか拾う。
乱れたレシーブを、影山くんがアンダーでレフトに託す。
東峰先輩のスパイクは、ブロックを弾いてブロックアウトになりかけるも、リベロが拾い、及川さんがオープントスでエースに繋ぐ。
岩泉「うぉぉ!」
そのスパイクを田中先輩が上げてみせるも、ボールはネットの上に上がり、そのまま青城にダイレクトで叩かれ____
西谷「おらぁぁぁ!」
西谷先輩がフライングで拾い、今度は烏野の攻撃となる、
影山くんが走って乱れたレシーブを追い、その間に日向くんが走り出す。
________トスを全く見ずに、上がると信じて、
あなたのあなた「いけっ!決まる…!!」
落下点に素早く回り込んだ影山くんは、腕から勢いを弾き出したような、変人速攻のあのトスを上げ________
バコンッ
3枚ブロックに阻まれたスパイクは、スローモーションで日向くんの後方に、放物線を描きながら落ちていき…
ドンッ
必死に手を伸ばす影山くん、西谷先輩、東峰先輩、の手は…無惨にもボールに届くことはなかった。
ピーッ
歓声に包まれ、肩を組んだり仲間を称え合う青城と反対に、烏野はコートに這いつくばって微動だにしなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。