結「ねー、バレー部にさ、差し入れ持ってかない?」
3日目の午前中。……今思えば、この結の一言によってこの後の合宿を大きく変えることになったんだろうなぁ…。
咲希「いいね。何作ろっか?」
あなたのあなた「運動の合間だから、あんまりお腹に貯まらなくて、スッキリする物がいいと思うよ。」
私のアドバイスに玲奈が「あ、じゃあゼリーとかは?」と提案する。
まりん「いいねー!私、白桃味のゼリー食べたい!」
真佳「私はぶどう味〜!!」
あなたのあなた「ちょっ…私たちが食べるんじゃないんだからね!」
私が苦笑しながら2人に言うと、真佳は真顔で「え、でも味見するから笑」と言う。
結「味見を目的に味を選ばないの!」
玲奈「だいたい今ぶどう味とか作れるの?」
あなたのあなた「んー…無理だね。」
3人の冷静なツッコミに真佳はショックで呆然とする。
真佳「ぶ、ぶどう味がぁ……〣( ºΔº )〣」
咲希「……現実的に、みかん味とかサイダー味とか、フルーツミックスの缶詰使うとかが妥当じゃない?」
咲希の具体的かつ現実的な提案で、そこから買い出しをして、ゼリー作りに移るまで、スムーズに進められた。
そして、午後の2時頃に何とかゼリーが固まってきて、差し入れにいける状態になった。
体育館に近づくと、ボールのバウンドする音や気持ちいいスパイクの音がして、何だか心地よかった。
咲希「うわ……凄い迫力。」
みんなはバレーを見慣れてないからか、外から覗いただけでも迫力に圧倒され、体育館に入るのを躊躇っていた。
あなたのあなた「ほらほら、ゼリー温たくなっちゃうよ?」
私がみんなの背中をグイグイ押すと、澤村先輩たちが私たちに気づいた。
澤村「あれ、白布さんたち……どうかしたの?」
あなたのあなた「あ、良かったら休憩の時にと思って、差し入れを持ってきました…!」
近寄ってきてくれた清水先輩にクーラーボックスを手渡すと、先輩は「ありがとう…みんな喜ぶよ」と微笑んでくれた。
西谷「……龍。今の見たか…?」
田中「あぁ、ノヤっさん。………清子さんが微笑まれていたぞ……!!」
まりん「…え、何あの天に召されたかのような表情してる先輩は。」
結「……まりん、そう思ってるならスルーしてあげな。」
そう話している私たちの所に、例の金髪のコーチが近づいてきて、お礼を言われた。
コーチ「いつも、選手らの飯も作ってくれてありがとうな。あと、この差し入れも」
咲希「そんな、大したものじゃないので…!」
そう言ってペコっと頭を下げる私たちに笑いかけながら、「いや、謙遜しなくていいんだ、本当に助かってる。」と褒めてくれた。
最初はイカつい見た目で、私も相当ビビってたけど、案外根っからの良い人なんだろうな…。
コーチ「そういえば、何気に名前言ってなかったな…。俺は烏養繋心。一応、近くの『坂の下商店』の店主でもあるから、また会う機会があるかもしれねぇ笑」
そう言って、人懐っこい笑顔を浮かべた。
烏養「おーい!せっかく差し入れ持ってきて貰ったから、休憩入んぞー!」
「まだ夕飯までに時間があったら、練習も少し見てきな。」とお誘いの言葉を頂き、しばらく体育館にお邪魔させて貰うことになった。
山口「白布さん、オススメの味とかある?」
休憩になり、みんながクーラーボックスから出したゼリーの中から好きな味を選んでいると、その集団から抜けた山口くんが、私にそう聞いてきた。
あなたのあなた「オススメかぁ……あ、でもレモンソーダ味はオススメかも!運動後だからクエン酸摂ると、疲労が少し回復すると思うから、」
山口「へぇ…!白布さん物知りだね。」
あなたのあなた「栄養学とかは、結構好きなんだ笑」
「じゃあ無くならない内に貰ってくるね!」と山口くんは言って、ゼリー争奪戦の戦場へと足を踏み入れた。
日向「!これめっちゃウマいっ!!」
日向くんがそう叫びながら食べ進めるのは、みかんの果肉入りゼリーだった。
玲奈「やっぱみかんは王道だね〜。好評で良かった笑」
私たちも選手の「ウマい!」の声にホッと息をつく。
菅原「ん…!?何このゼリー、思ってたより爽やかで酸味があって美味い…✨」
その声につられて菅原先輩の方を見ると、澤村先輩と東峰先輩と3人で床に座ってゼリーを食べている所だった。
澤村「良かったなぁスガ笑 …じゃんけんで西谷に負けて、白桃ゼリーゲットできなくてあんなに落ち込んでたのに。」
東峰「?入ってる星のそれ、なんだ?」
菅原「んー…これは________?」
あなたのあなた「あ、それはナタデココを星型にくり抜いた物です!ナタデココって食感が良いですけど、味ってなると分かりずらいですよね笑」
思わず、自分オリジナルのレモンソーダ味のゼリーだからこそ、解説に力が入る。
菅原「これ白布さんが考えたの?」
あなたのあなた「はい、…なのでお口に合わなかったらすみません。」
菅原「いやいやいや、白布さんが作ってくれたのなら絶対美味いに決まってるべ笑」
菅原先輩はいつも優しい。
絶対に私の作った物を「美味しい」って言って食べてくれる。
だから、私も先輩に食べてもらいたいと思うし、先輩のその言葉を心待ちにしているんだと思う…。
……ゼリー、菅原先輩に食べてもらえて良かったなぁ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!