及川「やっほー!トビオちゃん、チビちゃん、元気に変人コンビやってる〜?」
場違いなほどに、明るくて気の抜けた声に思わず顔を向けると、先ほどこの声の主から逃げた、及川さんが笑顔を浮かべてピースをしていた。
変人コンビ……?…あ、あの速攻のことかな。
っていうか、烏野と青城って面識あったんだ…。
及川さんの後ろから手をベシっと叩く、黒髪短髪の選手を見て頼り甲斐を感じつつ、私はそっと席を立った。
…絡まれたらめんどくさいし、さっきので青城の一部の人に遭遇しちゃったし。
そんな言い訳を並べながら、私は飲み物を買おうとロビーの自販機へと向かった。
あなたのあなた「んー…どれにしよう。」
まぁ、無難にミルクティーでいっか。とボタンを押し、ガゴンと重みのある音が落ちてくる。
私は1口ミルクティーを飲んで、その甘さに浸っていると、後ろから「ねぇねぇ、」と声がした。
振り返ると、そこにはジャージを着た選手が2人。
男①「キミ可愛いね!1人で来たの?」
あなたのあなた「……そうですけど、」
男②「え〜!マジ!?じゃあじゃあ、今ヒマっしょ?」
そう言うなり、見ず知らずの人は私の手首を掴んだ。
あなたのあなた「っ、ヒマじゃないです!」
少し声を荒らげてしまいながら、思いっきり手を振り払うと、相手は何故か「ハハッ」と笑みを浮かべた。
男②「いいじゃん!どうせ応援っていったって、家族とかだろ?俺らこの間の大会ベスト8だったし、応援してってよ!」
男①「どうせ、ろくな高校じゃねぇだろ?」
お兄ちゃんたちをバカにされて、私も内心イラッとしてきた。
この人たちと関わることは金輪際ないだろうし、白鳥沢の応援に来た、とぶちまけても問題ないと思って口を開く。
あなたのあなた「あなたたちには関係ないです。…私が応援しに来たのは_______」
??「……なにしてんの、」
低い声と共に、私の右手を包んで引っ張られた。
男①、②「ヒッ……」
さっきの人たちが、小さく息を漏らすように悲鳴を上げた声が、どんどん遠ざかっていく。
握られた手の先を見ると、真っ白なジャージが目に入って、
国見「…こういう、めんどくさいのに絡まれるのは変わってないのかよ。」
そうボソっと呟く懐かしい声に、繋がった右手が熱くなる。
あなたのあなた「……英、くん?」
国見「…高校生になってもそう呼ばれんの、やなんだけど。」
英くんは前方を向いたまま歩き続ける。
あなたのあなた「……じゃあ、国見くん?」
国見「は?」
より低い声で本音をこぼす英くんに…私の知らない英くんに、少し怖いと思った。
英くんは足を止めると、手を繋いだまま振り返って、私を見下ろした。
あなたのあなた「ご、ごめ________」
国見「……英。」
あなたのあなた「……へ?」
国見「そう呼んでよ。これから」
表情はポーカーフェイスのままだけど、口調は甘えたな感じで。
あなたのあなた「わ、わかった……、あきら。」
私は何だか恥ずかしくて、下を向いたままそう呼ぶと、当の本人は何も言い返してこなくて無反応だった。
あなたのあなた「ねぇ、ちゃんと呼んだけど_____…っ」
英、と呼び捨てで呼んだことの恥ずかしさよりも、無反応のこの空気に耐えられなくなって、私は顔を上げる。
国見「…………上目遣い反則。」
そう言って顔を逸らす英くn…いや、英に、思わず笑みがこぼれる。
あなたのあなた「ははっ笑…なーんか、英は全然変わってないね。あの塩キャラメルも好きなままだし、」
あの頃の英だ、と思うと心が暖かくなって、
嬉しくなりながら、浮かれた声色でそう告げた。
……けど、それは英はお気に召さなかったようで。
国見「……ガキのままだって言いたい訳?」
繋がれたままの手を強引に引かれ、私を壁と自身で挟むとあっという間に距離を詰めた。
あなたのあなた「ちょっ……英くん、っ」
国見「……だから、英だってば。」
「間違えたから、罰ゲームね」と言って、私の右手をぎゅっと強く握り直す。
そして、空いたもう片方の手を私の顔の横に押し付けると、私の視界には英くん以外入らなくなっていた。
国見「………俺が子供のままだなんて、二度と思わせないようにするから。」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。