あなた「ただいま〜」
夕日の差し込んだ、誰もいない静かな家に、そう告げた。…まあ、もう慣れっこなんだけどね。
リビングに、スクバと買い物袋をドサッと下ろすと、制服の上からエプロンを着用。
即刻、2階のベランダへと向かうのだった。
ジュ〜っ
フライパンから、良い音と香ばしい香りが漂ってくる。スマホと格闘すること15分、今日のメニューは豚肉の生姜焼きに決まった。
お兄ちゃんも、1年生入部してきて、疲れてるだろうし…、生姜パワーで、少しでも元気に!!
あとは、豚肩ロースじゃなくて、豚バラ肉を使って、脂肪分を減らしたっていうのも、ちょっとした工夫。お兄ちゃんは気づかないだろうけど。
白布「ただいま」
あなた「おかえりーっ」
お兄ちゃんは、白鳥沢高校のバレー部のレギュラーだから、練習も遅くまでやっている。毎日お腹ペコペコになるまでボールを追いかける兄は、純粋に凄いと思うし、中学からずっと応援している。
白布「今日の夕飯、結局何になった?」
あなた「生姜焼き!今日ちょうどキャベツも安かったから」
白布「また今日もスーパー寄ったのか、毎日は大変だからいいって……」
あなた「ダメダメ!!その日の方が新鮮で安い食材が調達できるの!!!」
白布「…まぁ、ご飯については、あなたが係だもんな。ちょっと着替えて来るから待ってろ。」
あなた「はーい」
お兄ちゃんが2階にいる間に、私は散らかったリビングを整理し始めた。
白布「お待たせ……って、何だよ、こんなに荷物広げて。」
あなた「あぁ、ごめん!明日の宿泊研修の準備」
白布「確か、キャンプ場に行くんだよな」
あなた「そうそう。写真いっぱい撮ってくるねー」
白布「スマホ一応禁止なんだろ。あんまり人前でいじるなよ」
あなた「分かってるよ!……それと、さ。…お兄ちゃん、くれぐれも朝ごはんと夕ご飯は、ちゃんと食べてよ。」
白布「飯ぐらい、一応自分で作れるから。」
お兄ちゃんはそう言うと、「ご飯冷めるぞ」とスタスタと椅子へ向かい、座った。
2人「いただきます。」
カチャカチャと、食器を置く音、ご飯をかき込む音などが、キッチンに響き渡る。
2人でのご飯は静かだけど、居心地は決して悪くない。そういう部分が、お兄ちゃんと一緒に居やすい所でもある。
白布「明日の出る時間は、いつもと同じぐらいか?」
あなた「うん。お兄ちゃんは明日も朝練でしょ。多分、いつも通り私が家出るの最後だから、研修に家鍵持ってっちゃうね。」
白布「管理、気をつけろよ。」
あなた「はーい。」
白布「それで、……結局、あなたは部活どうするんだよ。」
不意な質問に、すこしばかりか驚き、思わず箸の手を止めて、お兄ちゃんをまじまじと見た。
お兄ちゃんは、私の様子を伺うように、さりげなく、でも耳をすまして私の返答を待っているように思えた。
あなた「んー。今のところは、帰宅部か調理部かなって思ってる。」
白布「烏野、調理部なんてあるんだな。」
あなた「公立だからってナメてちゃだめだよ〜笑」
白布「別に、ナメてはないから笑」
珍しくお兄ちゃんの顔がフッと緩んだ。私の顔を見て、ホッとするような、小馬鹿にされたような…。
そんな気がした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。