それからは、文化祭の実行委員に、調理部に…とやることの立て続けであっという間に過ぎていった。
IH予選前日の放課後。
この日は真っ先に家に帰るつもりだったのに、今日の昼休みに決まりきらなかった実行委員の会議が放課後まで長引いてしまい、結局18時まで学校に残る羽目になった。
……まぁ、そんなこともあろうかと、昨日のうちに食材は買い貯めといたから良いけども。
そんなことを1人考えながら荷物をまとめていると、私の隣の席に置きっぱなしの資料にどうしても目がいく。
部活で今日の会議に来れなかった、菅原先輩の分の書類…。さすがにこのまま置きっぱなしにするのは良くないと思い、まだ残っていた生徒会長に声をかける。
あなたのあなた「橘先輩。…この菅原先輩の分の資料渡しておいた方がいいですか?」
話しかけると、作業していた手をとめて、くるっと振り返ると持ち前の落ち着いた笑顔を浮かべる。
橘「早めに目を通して貰っとくほうがありがたいけど…でも今日は金曜日だし、」
あなたのあなた「多分まだバレー部終わってないと思うので、渡してきます!」
橘「……じゃあお願いしようかな笑」
あなたのあなた「はい、 じゃあお先に失礼します。」
橘「お疲れ様。」
先輩が背中からかけてくれる声に頷いて、私は会議室を出た。
昇降口を出ながら菅原先輩のLINEを開き、この前とは打って変わって、ただの業務連絡を打ち込む。
おそらく、まだ部活中だろうから、校門前で待っていようと思ってスマホを片手に歩き出す。
と、校門に向かっている途中、反対側から歩いていたのは、同級生と思えない長身男子と、ちょっとおどおどしてる所に微笑ましくなるクラスメイトだった。
山口「あれ…、白布さん?」
月島「………そうみたいだね。」
向こうも同じように気づいたようで、私はスマホを持っていない方の手を軽くふる。
あなたのあなた「あれ、今日はバレー部終わるの早いんだね、」
私がそう言うと、月島くんが「明日が大会だから」と教えてくれる。
あなたのあなた「……そうだね。」
山口「…何かバレー部に用でもあったの?」
あなたのあなた「あ、いや、用っていうか……菅原先輩もう帰っちゃったかなって…」
山口「菅原さんなら、まだ体育館にいたよ。」
あなたのあなた「ほんと?ありがとう…!」
山口くんの言葉を聞いて体育館に向かおうと思った私は、「じゃあ、明日…頑張ってね、バイバイ。」と2人に言って背を向けた時、
月島「………最近、菅原さんとやけに仲良さげじゃん」
月島くんにそんなことを言われると思わなかったから、私は少々驚きつつも…、
さっきよりも険しくなったその無愛想な表情の月島くんが、不思議だった。
あなたのあなた「そう…?実行委員で関わる機会が多くなったからだと思うけど、」
それに、菅原先輩と仲良くなったとしても、月島くんがそんな顔するような事じゃないよね…?
山口「…ツッキー、なんかイライラしてる?」
山口くんも私と同じことを感じたのか、恐る恐る月島くんにそう尋ねる。
相変わらず月島くんは「うるさい、山口」と言ってあしらうが、その口調はいつもより言葉のトゲが無くて。
あなたのあなた「……それに、私が菅原先輩と仲良くなったって、月島くんには関係ないじゃん。」
なんで月島くんがそんな顔をするのか…、私には全くもって見当がつかなくて、
それを知りたいって思った私の口から、本音がこぼれた。
月島「………へぇ、」
月島くんは私がそう言うと、さっきまで無愛想Lv100だった表情が、Lv250程に上がるほど余計に不機嫌になった。
あなたのあなた「……月島くん?」
私が声をかけても無反応…と思っていた時、私の頬に軽く力を加えて固定する彼のスラッとした指によって、強制的に上を向かされる。
私たち2人の間に沈黙が流れるも、月島くんが手を離してくれる気配は無くて…、
月島「…菅原さんと、そういう関係なんだ?」
‘’そういう”って…________
山口「あ…」
ずっと隣でフリーズして見ていた山口くんが、我に返ったかのように、声を漏らした。
月島くんがその視線の先を追うと、表情を固くする。
菅原「あー……、俺タイミング悪かったべ。ごめん」
何とも気まずそうで、でもその場から離れない菅原先輩の姿があった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!