第80話

流れはどこで変わるか
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2021/08/17 08:58




ゲームが再開すると、次の1点は青城のタッチネットによって、烏野の得点となった。






うわぁ…心臓止まる、1つのプレーごとにハラハラする…。






滝ノ上「でも…、」



あなたのあなた「…今の得点で、日向くんが後衛…。」




3人の中に沈黙と焦りが広がる…






嶋田「ここでミスったら、青城は20点の大台!流れ持ってかれると追いつけなくなるぞ〜!」


「う〜っ」と唸り声を出しながら、祈るように両手を擦り付ける嶋田さんの願いが儚くも叶ったのか…(?)






ピーッ





滝ノ上「…おいっ嶋田、あれ________」



あなたのあなた「え、ウソ……!?」






私たちの視線の先には、ガタガタに震えながら10番の札を持つ、山口くんの姿があった。





嶋田「た、忠がピンチサーバー…!?」





すぐさま横断幕の裏に座り込んで、頭を抱えてぐしゃぐしゃ掻く嶋田さんの姿に疑問を覚え、



あなたのあなた「…なんで嶋田さんがそんなに焦ってるんですか?」



と聞くと、隣にいた滝ノ上さんが、「山口は、今嶋田のとこでジャンフロ教えて貰ってんだよ」と言われ、思わずコート上で先輩たちに励まされてる山口くんを2度見した。




……見てるこっちが不安になるよ、大丈夫かなぁ…





滝ノ上「あちゃ〜、ガッチガチだな…」




嶋田「…しょうがねぇよ。仲間に繋ぐことが全てのバレーで、サーブは唯一1人の瞬間。…全員が自分を見る。プレッシャーも一入だ。」





そう静かに語る嶋田さんは、多分サーブに人一倍力を入れてきたんだろう…。





嶋田「…それでも、サーブポジションに立った瞬間は、誰だろうとその試合の主役だ!」






言葉に力を込めて言う嶋田さんは、きっと山口くんならサーブを決めるって“信じてる”。








心臓飛び出そうになりながら、私も山口くんなら決めてくれると信じて、両手を組んでギュッと握りしめた。











ピーッ








ゆっくりとした助走で、山口くんがモーションに入る。





________入れ…!!










ゆらゆらとブレながら相手コートに向かうボールは、ネットにスレスレのコースに変化して……















ドンッ…




ネットに引っかかって、そのまま呆気なく烏野側のコートに落ちた。








ピッ







応援「わぁぁぁ!」



一段と大きな歓声が、青城の応援席から上がる。





これで17-20…。20点台に乗って3点差もあり、追い討ちをかけるような、烏野のダメージ。







澤村「山口!」



俯いてベンチに戻る山口くんに、澤村先輩が声をかける。







山口「あっ…す、すみませ________」




澤村「……“次”、決めろよ。」






澤村先輩の低い声が、私の所にまでハッキリと届いた。





…けど、それは怒って責めてるからじゃなくて、





山口「…っはい!」









『次に繋げるんだ』っていう、澤村先輩たちの強い決意を秘めた言葉だったから…。








主将の言葉で、烏野のコートもベンチも、みんなの目に光と熱が帯びる。











女子「えぇ〜…ピンチに突然出されて、失敗したら引っ込められちゃうんだ。」


女子「…なんか、可哀想。」






嶋田「ピンチサーバーはそういう仕事なんだ。」



及川さんのファンの人たちの言葉に答えるように、嶋田さんが再び語り始める。




嶋田「その1本に、試合の流れと自分のプライド全部乗っけてる。…それで、忠は失敗した。」








高校初公式試合に、ファイナルセットのピンチにいきなり出されて、緊張して当然の場面。




それでも、嶋田さんは山口くんに厳しい言葉を向けた。









嶋田「…でも、今ここで悔しさと自分の無力さを知るチャンスがあることが、絶対にあいつを強くする。」








ピッ




田中「うおぉぉぉぉぉ!!」




田中先輩の強烈なスパイクが3枚ブロックの上から打たれ、リベロが正面にいたものの、そのパワーで弾かれた。




…まさに、水を得た魚状態。田中先輩スゴいなぁ。







女子「なんか、黒い方元気になった?」




「さっきミスしてたのにね、」と不思議そうに呟く女子たちに向けてか否か、嶋田さんが「確かに、たっつぁんの言う通りかもな。」と言った。











嶋田「流れは、どっからどう変わるか分からない…!」





















こんなバレー、久しぶりだ…。








『ナイスキー!その調子!』



『いけいけ!流れこっち来てるよ!』




中学のマネージャーをやってた頃。1点ごとにハラハラドキドキして、その分長引いたラリーを制した時は、飛び上がるぐらいに嬉しくて…。










あの頃の、楽しかったバレーが脳裏に蘇ってくる…。














あの、自分も選手と戦っているように錯覚させられる、バレーボールを…。










お兄ちゃんたちのチームと真反対で、ずっと忘れていた、この感情を________














































……………………………!作者より!………………………










VS青城戦、長引いちゃってすみません…( ̄▽ ̄;)





次回で終わるかと思いますので、展開が分かってる人が大勢かと思いますが…。








最後の最後まで、烏野の奮闘と、あなたのあなたちゃんの心境の変化を見届けてあげてください!














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