ゲームが再開すると、次の1点は青城のタッチネットによって、烏野の得点となった。
うわぁ…心臓止まる、1つのプレーごとにハラハラする…。
滝ノ上「でも…、」
あなたのあなた「…今の得点で、日向くんが後衛…。」
3人の中に沈黙と焦りが広がる…
嶋田「ここでミスったら、青城は20点の大台!流れ持ってかれると追いつけなくなるぞ〜!」
「う〜っ」と唸り声を出しながら、祈るように両手を擦り付ける嶋田さんの願いが儚くも叶ったのか…(?)
ピーッ
滝ノ上「…おいっ嶋田、あれ________」
あなたのあなた「え、ウソ……!?」
私たちの視線の先には、ガタガタに震えながら10番の札を持つ、山口くんの姿があった。
嶋田「た、忠がピンチサーバー…!?」
すぐさま横断幕の裏に座り込んで、頭を抱えてぐしゃぐしゃ掻く嶋田さんの姿に疑問を覚え、
あなたのあなた「…なんで嶋田さんがそんなに焦ってるんですか?」
と聞くと、隣にいた滝ノ上さんが、「山口は、今嶋田のとこでジャンフロ教えて貰ってんだよ」と言われ、思わずコート上で先輩たちに励まされてる山口くんを2度見した。
……見てるこっちが不安になるよ、大丈夫かなぁ…
滝ノ上「あちゃ〜、ガッチガチだな…」
嶋田「…しょうがねぇよ。仲間に繋ぐことが全てのバレーで、サーブは唯一1人の瞬間。…全員が自分を見る。プレッシャーも一入だ。」
そう静かに語る嶋田さんは、多分サーブに人一倍力を入れてきたんだろう…。
嶋田「…それでも、サーブポジションに立った瞬間は、誰だろうとその試合の主役だ!」
言葉に力を込めて言う嶋田さんは、きっと山口くんならサーブを決めるって“信じてる”。
心臓飛び出そうになりながら、私も山口くんなら決めてくれると信じて、両手を組んでギュッと握りしめた。
ピーッ
ゆっくりとした助走で、山口くんがモーションに入る。
________入れ…!!
ゆらゆらとブレながら相手コートに向かうボールは、ネットにスレスレのコースに変化して……
ドンッ…
ネットに引っかかって、そのまま呆気なく烏野側のコートに落ちた。
ピッ
応援「わぁぁぁ!」
一段と大きな歓声が、青城の応援席から上がる。
これで17-20…。20点台に乗って3点差もあり、追い討ちをかけるような、烏野のダメージ。
澤村「山口!」
俯いてベンチに戻る山口くんに、澤村先輩が声をかける。
山口「あっ…す、すみませ________」
澤村「……“次”、決めろよ。」
澤村先輩の低い声が、私の所にまでハッキリと届いた。
…けど、それは怒って責めてるからじゃなくて、
山口「…っはい!」
『次に繋げるんだ』っていう、澤村先輩たちの強い決意を秘めた言葉だったから…。
主将の言葉で、烏野のコートもベンチも、みんなの目に光と熱が帯びる。
女子「えぇ〜…ピンチに突然出されて、失敗したら引っ込められちゃうんだ。」
女子「…なんか、可哀想。」
嶋田「ピンチサーバーはそういう仕事なんだ。」
及川さんのファンの人たちの言葉に答えるように、嶋田さんが再び語り始める。
嶋田「その1本に、試合の流れと自分のプライド全部乗っけてる。…それで、忠は失敗した。」
高校初公式試合に、ファイナルセットのピンチにいきなり出されて、緊張して当然の場面。
それでも、嶋田さんは山口くんに厳しい言葉を向けた。
嶋田「…でも、今ここで悔しさと自分の無力さを知るチャンスがあることが、絶対にあいつを強くする。」
ピッ
田中「うおぉぉぉぉぉ!!」
田中先輩の強烈なスパイクが3枚ブロックの上から打たれ、リベロが正面にいたものの、そのパワーで弾かれた。
…まさに、水を得た魚状態。田中先輩スゴいなぁ。
女子「なんか、黒い方元気になった?」
「さっきミスしてたのにね、」と不思議そうに呟く女子たちに向けてか否か、嶋田さんが「確かに、たっつぁんの言う通りかもな。」と言った。
嶋田「流れは、どっからどう変わるか分からない…!」
こんなバレー、久しぶりだ…。
『ナイスキー!その調子!』
『いけいけ!流れこっち来てるよ!』
中学のマネージャーをやってた頃。1点ごとにハラハラドキドキして、その分長引いたラリーを制した時は、飛び上がるぐらいに嬉しくて…。
あの頃の、楽しかったバレーが脳裏に蘇ってくる…。
あの、自分も選手と戦っているように錯覚させられる、バレーボールを…。
お兄ちゃんたちのチームと真反対で、ずっと忘れていた、この感情を________
……………………………!作者より!………………………
VS青城戦、長引いちゃってすみません…( ̄▽ ̄;)
次回で終わるかと思いますので、展開が分かってる人が大勢かと思いますが…。
最後の最後まで、烏野の奮闘と、あなたのあなたちゃんの心境の変化を見届けてあげてください!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!