第79話

VS青葉城西
3,823
2021/08/14 21:21



滝ノ上「あれ、あの子…ほら烏野で会った」


嶋田「あ!白布ちゃん…だっけ、?」




……白布ちゃん?



そんな呼び方今までされたことないから、少し腑に落ちないが、声の方に視線を向けると、昨日と同じく滝ノ上さんと嶋田さんがいて、目が合うと“おいでおいで”とでも言うように手を振られた。





このままスルーするのも失礼だし…、



そう思ってそそくさと2人に近づくと、「…こんにちは」と軽く会釈をした。





嶋田「なに、白布ちゃんも応援に来たの?」


あなたのあなた「応援というか…気になったので、見に」



昨日も来ていたとは言えず、そう曖昧に答えると、「それを応援って言うんだろ笑」と滝ノ上さんに笑われた。



と、話しているとコートでは、日向くんがブロードを仕掛けてブロックを牽制し、レフトの田中先輩のスパイクが気持ちよく決まる。




これで1点差…!




次の攻撃でも、日向くんはジャンプの手を緩めることなく、全力の助走とジャンプを続けていた。





女子「……あの小さい子、スゴい…!」


滝ノ上さんの隣にいた女子3人のうちの1人がそう呟く。




…おそらく、及川さんのファンの人たちかな。にしても、なんで烏野コート側に…?



そう、少しイラッとしたのを抑えていると、


嶋田「バレーはさ、とにかくジャンプ連発のスポーツだから、重力との戦いでもあると思うんだ。」



嶋田さんがその子たちに語り始めるのを、驚いて見つめていた。




嶋田「…囮で跳ぶ、ブロックで跳び、スパイクで跳ぶ。」





コート上では田中先輩のブロックフォローに入る西谷先輩。





嶋田「さらにラリーが続いて、苦しくなるにつれて、思考は鈍っていく。」


嶋田「ぶっちゃけブロックとか囮はサボりたくなるし、スパイクも誰か他の奴打ってくれって思ったこともある。」




私も、その女の子たちもコートを見ながらじっと嶋田さんの言葉を聞いていた。




滝ノ上「長いラリーが続いた時は、酸欠になった頭で思ったよ。」


「…ボールよ、早く落ちろ。願わくば相手のコートに」








日向「持って、こぉぉぉい!!」







日向くんのお腹から叫ぶ声が響き、私の腕に鳥肌が立つ。



今の2人の話を聞いたからだろうか…。そんな過酷な状況の中、辛くてもそう叫ぶ日向くんが凄いと思った。自身の身体が震えた。







岩泉「フリーで打たせて、たまるかぁあ!」



日向くんの前に立ちはだかる、2枚の壁。





影山組んがトスを上げた先は、後ろから走り込んできた東峰先輩が待ち構えていて、





及川さんの1枚ブロックを腕ごと弾いて、青城コートにスパイクを叩きつけた。







嶋田・滝ノ上「パイプ貫通!」


あなたのあなた「今の…、音駒の時の……!」




昨日の伊達工との試合でもやってた、前衛の囮からのバックアタック!




滝ノ上「そ!音駒がやってた“パイプ”ってコンビネーション。にしても東峰スゴいなぁ…あのスパイクの威力!」


嶋田「そういえば音駒との練習試合の時、白布ちゃん音駒側にいたよな。」


あなたのあなた「あ、音駒の方マネージャーがいなかったらしいんで…お手伝いに駆り出されてました。」




青城のとったタイムアウト中、そんな会話をしていると、「え、白布ちゃんってマネできんの!?」と食いつかれてしまった。



あなたのあなた「あ…一応中学でやってたので。」


滝ノ上「なんでそれでマネやんないの!?もったいねーっ」


そう言ってくれる滝ノ上さんに「あはは…」と乾いた笑みを向けると、さすがに大人は察してくれたようで、それ以上は深堀りしてこなかった。







ピーッ




タイムアウト明け、田中先輩がブロックアウトで同点に追いつき、次のローテで日向くんが後衛に下がってしまう。



すると、またしても日向くんはブロードに走り出し、また攻撃を仕掛ける。



滝ノ上「うおっ!またブロード来るか……って、」




青城は日向くんのブロードに、ブロックが追うことなく、2枚の壁はレフトから動かなかった。



嶋田「あれ…、ノーマーク!?ブロック諦めたのか…!」




田中「よっしゃ!日向、フリーで行ったれ!!」




パシッ





打ったスパイクはブロックがないのに相手のリベロに綺麗に拾われて、セッターにAパスで返ってくる。



と 、畳み掛けるように及川さんが、鮮やかにツーアタックを決める。




嶋田・滝ノ上「ここでツーアタック!?」


応援席から身を乗り出して、2人がそう叫んだ。





あなたのあなた「ブロックついてなくても、あんなに綺麗にスパイク拾えるんですか…?コースも絞られてないのに、」




私が思わずそう聞くと、嶋田さんがため息をついてから考え込むように話し出した。



嶋田「…日向のブロードは勢いがついてるから、身体が右に流れながら打ってる。加えて、変人速攻なら目も瞑ってるはずだから、日向はコースの打ち分けが出来ないんだ。」



あなたのあなた「…だから、フォームとかそういう情報から、ある程度コースが予想できる…」



滝ノ上「逆にブロックがないことで、フォームも見やすくなり、相手がよく見えるからな。…ったく、青城対策打ってくんのが早すぎるんだよ…」





焦りからか、崩れていく烏野の守備に追い討ちをかけるかのように、日向くんのスパイクが3枚ブロックに止められた。








ピピーッ




滝ノ上「あぁ…タイムアウト2回とも使い切っちまった。」


嶋田「まぁ仕方ねぇよ。タイムアウトで物理的に流れ切らなきゃ、マジでこのまま青城に持っていかれる。」



あなたのあなた「…1発ブレイクしないと、このままじゃキツいですよね、」





深刻そうに3人で、ベンチに集まる選手たちを見ながらそう話していると、その中心で険しい表情をしていた烏養さんがバッと嶋田さんに顔ごと向けた。






嶋田「……へ、?」








険しかった表情がスっと消えて、嶋田さんを見つめる烏養さんに困惑するのは、嶋田さんの横にいた私と滝ノ上さんも同じだった。
























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