〜白布side〜
あなたのあなた「…わかんないの?お兄ちゃんに迷惑かけたら、怒るのはお父さんなんだよ…?」
震えながらそう告げるあなたのあなたは、以前にも見覚えがあった…
父「お前のせいだろ!お前が母さんを殺したんだろ!」
俺の義理の母親、そしてあなたのあなたの実の母親の葬式の場。
父さんはあなたのあなたにそう怒鳴っていた。
父「俺は…ちゃんと最前を尽くした!手術だって成功した!結婚して、また幸せな日々を過ごせるって、…母さんだって笑ってた。なのに!」
バシッ
鈍く、乾いた音がその場に響く。
周囲の人は驚いたように、さっきまでの礼儀正しい父との変貌を見つめていた。
父「お前が宮城に戻ったりしたから!お前があのまま兵庫の親戚の家にいて、俺と賢二郎と母さんで暮らせてたなら…こんな事にはならなかった!」
あなたのあなた「……っ、ひっ…ぐ………っ、ごめ、んなさい…」
大人「ちょっ、白布さん…落ち着いて!」
父「離せ!部外者は黙ってろ!!…これは、俺とこいつの問題なんだ!」
いつもの外面はどこにいったのか、我を失って怒鳴り散らかす父は…やはり、あなたのあなたの母親を本気で愛していたんだろう。
愛していたからこそ、悔しくて辛かったんだろう。
…でも、俺はそんな父さんを許すつもりはなかった。
白布「…あなたのあなた行こう。」
あなたのあなた「…ふうぅぅ……っ、、……う、ん、」
あなたのあなたは、なんとか息を整えようとその小さな肩を大きく揺らし、深呼吸を繰り返していた。
そんなあなたのあなたの背中に手を当て、俺たちは外へ出た。
あなたのあなた「…ごめん、なさい……迷惑かけて。」
白布「…お前に迷惑かけられるのなんか、今更じゃねえだろ。」
さっき父にぶたれた頬を冷やしながら、そう告げた。
正直、女子の慰め方なんて当時は分からなかったし、今もわからない。
だから中3だった俺は、そんな冷たい言い方しか出来なくて、一人奥歯をギリっと噛んだ。
あなたのあなた「…私、これからどうなるんだろ…」
そういって力なく笑うあなたのあなたは、脆い仮面のような笑みを貼り付けてそう呟いた。
あなたのあなた「…どこかに消えてなくなりたい。」
この言葉が、あなたのあなたが俺に初めて漏らした本音だった。
そんな状態になるまで何もしてやれなかった自分が情けなくて、
そんなあなたのあなたを見てるのも、その言葉を聞くのも辛くて、
俺はぎゅっとあなたのあなたを抱きしめた。
白布「…お前がいなくなったら、俺が困る。」
あなたのあなた「………」
白布「なぁ、もっと頼れよ。…俺のこと。もっと信じていいから。」
あなたのあなた「……信じたって、最後は絶対裏切られる。」
白布「俺は裏切らないから。絶対あなたのあなたのそばに居る。」
そう強く言っても、あなたのあなたは首を横に振る。
あなたのあなた「…意図しなくても、大人の力で子供の願望なんて、約束なんて…すぐに奪われる。」
白布「そんなの関係ねぇ」
俺はあなたのあなたの心に届くように、抱きしめる腕に力を込め、必死に語りかけた。
白布「大人がどうしようと、俺はずっとお前の兄貴だし、…ちゃんと守るから。」
だから、信じてほしい……。
抱きしめた腕を解き、あなたのあなたの正面に顔を合わせると、目をまっすぐ見てそう告げる。
さっきまで空っぽだったあなたのあなたの瞳に、いっぱいの涙が溢れ出した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。