第20話

卵がゆの優しい味
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2021/06/06 05:18


あなたのあなた「ん……、」




気づくとふかふかのベットに仰向けになっていて、



見慣れた天井が私の視界いっぱいに広がっていた。



………私、どうやってここまで来たんだっけ…?



そんなことを考えながら上半身を起こすと、ズキッと頭に響いて痛くなった。





コンコンっ


いつもなら、私が返事するまで決して開かない部屋のドアが、そおっと音を立てずに開いた。



白布「…なんだ、起きてたのか。」



お兄ちゃんは、お盆に載せた小鍋を持って入ってきた。優しい香りから、中身は卵がゆだと予想。



あなたのあなた「お兄ちゃん…」



白布「喉痛いとか、頭ぼーっとするとかは?」



あなたのあなた「ううん、大丈夫そう……」



白布「…少しは何か食っとけ。まぁ、お前が作った方が美味いんだろうけど」




机を引っ張り出してきて、小鍋の蓋をとる。ホカホカの湯気から部屋中に卵がゆの香りが広がる。



……正直お腹はそんなに空いてなかったけど、お兄ちゃんの優しさに甘えたいという思いの方が勝り、私は木製のスプーンを手に取る。




あなたのあなた「いただきます。」



1口分、スプーンですくって口に運ぶ。卵のまろやかさとネギの香りが鼻から抜けて……、



あなたのあなた「美味しい…」



気づくとそう呟いていた。




もう1口分食べた頃、私の勉強机の椅子に座ったお兄ちゃんが、重そうな口を開いた。




白布「……あなたのあなたが熱とか珍しいな」



あなたのあなた「(ギクッ)」



白布「何かあったんだろ」




お兄ちゃんの方を見ると、しっかり私の目を見つめていて。もう逸らせないということを肌で感じた。





あなたのあなた「実は………」


私は宿泊研修で雨に降られてしまったこと、昨日の時点で熱を出していたことを説明した。



白布「………」



あなたのあなた「1回熱引いたから、大丈夫だと思ったの!」



白布「…で、それを俺に隠し通すつもりだったと。」




お兄ちゃんのキレ長の目は、視線をより1層鋭くさせる。そして、「…兄貴も舐められたもんだな。」とため息混じりに呟いた。



あなたのあなた「だ、だって…余計な心配かけると思って………。」








白布「……心配くらい、させろよ。」





一瞬、私の思考回路が止まった。



だって、そういう時お兄ちゃんは「いつものことだろ。今更なに?」とか、「もう心配し慣れてる。」とかをつっけんどんに言うと思ってた。




だからこそ、こんな風に少しだけ弱々しく告げるお兄ちゃんは珍しくて、




あなたのあなた「……お兄ちゃんも熱ある?」



白布「お前にだけは言われたくない」



あなたのあなた「だってだって、お兄ちゃんいつもそんなこと言わないじゃん!この前だって、夜に買い忘れてたもの調達しようとしてたのn________」




私が全部言い終わるのを待たずに、2口目がお兄ちゃんによって押し込まれた。



あなたのあなた「んん………っ、、あつっ……」



白布「食わせてやってるんだから文句言うな。」



あなたのあなた「お兄ちゃんが勝手に押し込んできたんじゃん!」



白布「……ったく」



お兄ちゃんはもう1口分スプーンですくうと、冷ます為にふーふーっと息を吹きかけた。




白布「…ほら、口開けろ。」



あなたのあなた「……ん、」




私も今度は素直に口を開いて、おかゆを食べる。1口目よりも少しは冷めてて食べやすいのに、胸いっぱいに広がるお兄ちゃんの温もりで、なんだか心地よかった。






あなたのあなた「…ごちそうさま。」



お兄ちゃんには悪いけど、さすがに私も全部は食べきれなくて、小鍋には食べかけの卵がゆが残っていた。




あなたのあなた「お兄ちゃんは、夕ご飯食べたの?」



白布「あなたのあなたが作ってくれた麻婆豆腐食うつもりだけど。」



あなたのあなた「え…じゃあ、おかゆを先に作ってくれてたってこと……!?」




お兄ちゃんもただでさえ部活で疲れてるのに…、これじゃあまた迷惑かけ________




白布「迷惑なんて思ってねぇから。」





テレパシーでも使えるのか、この人……




白布「……だから、ちゃんと寝て早く治せ。」



あなたのあなた「うん…」









_____ちゃんと分かってる。私が沈まないように、元気づけるために、いつもより優しく接してくれることも。






お兄ちゃんは、ああ言って励ましてくれたけど、



やっぱり私は迷惑かけてばっかりの、お兄ちゃんのお荷物なんだってことも。







そう言い聞かせるの、慣れてるじゃん…








お兄ちゃんのことは他の誰よりも信頼できる。


……けど、お兄ちゃんですら私は信用しきれない。





だから自分に言い聞かす。失った時に、少しでも心を軽くしていられるように。





白布「じゃあ、俺も食って寝るから。」



立ち上がってドアに向かう後ろ姿を見つめる。



ドアの前で立ち止まると、スっとこっちに振り返って




白布「………おやすみ。」





パタン










……慣れてるはずなのに


最近はどうしてこうも、お兄ちゃんの優しさに触れると、私の決意は揺らいでしまうのだろう。




どうして、その言葉を丸ごと受け入れたいって欲張っちゃうんだろう……





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