あなたのあなた「ん……、」
気づくとふかふかのベットに仰向けになっていて、
見慣れた天井が私の視界いっぱいに広がっていた。
………私、どうやってここまで来たんだっけ…?
そんなことを考えながら上半身を起こすと、ズキッと頭に響いて痛くなった。
コンコンっ
いつもなら、私が返事するまで決して開かない部屋のドアが、そおっと音を立てずに開いた。
白布「…なんだ、起きてたのか。」
お兄ちゃんは、お盆に載せた小鍋を持って入ってきた。優しい香りから、中身は卵がゆだと予想。
あなたのあなた「お兄ちゃん…」
白布「喉痛いとか、頭ぼーっとするとかは?」
あなたのあなた「ううん、大丈夫そう……」
白布「…少しは何か食っとけ。まぁ、お前が作った方が美味いんだろうけど」
机を引っ張り出してきて、小鍋の蓋をとる。ホカホカの湯気から部屋中に卵がゆの香りが広がる。
……正直お腹はそんなに空いてなかったけど、お兄ちゃんの優しさに甘えたいという思いの方が勝り、私は木製のスプーンを手に取る。
あなたのあなた「いただきます。」
1口分、スプーンですくって口に運ぶ。卵のまろやかさとネギの香りが鼻から抜けて……、
あなたのあなた「美味しい…」
気づくとそう呟いていた。
もう1口分食べた頃、私の勉強机の椅子に座ったお兄ちゃんが、重そうな口を開いた。
白布「……あなたのあなたが熱とか珍しいな」
あなたのあなた「(ギクッ)」
白布「何かあったんだろ」
お兄ちゃんの方を見ると、しっかり私の目を見つめていて。もう逸らせないということを肌で感じた。
あなたのあなた「実は………」
私は宿泊研修で雨に降られてしまったこと、昨日の時点で熱を出していたことを説明した。
白布「………」
あなたのあなた「1回熱引いたから、大丈夫だと思ったの!」
白布「…で、それを俺に隠し通すつもりだったと。」
お兄ちゃんのキレ長の目は、視線をより1層鋭くさせる。そして、「…兄貴も舐められたもんだな。」とため息混じりに呟いた。
あなたのあなた「だ、だって…余計な心配かけると思って………。」
白布「……心配くらい、させろよ。」
一瞬、私の思考回路が止まった。
だって、そういう時お兄ちゃんは「いつものことだろ。今更なに?」とか、「もう心配し慣れてる。」とかをつっけんどんに言うと思ってた。
だからこそ、こんな風に少しだけ弱々しく告げるお兄ちゃんは珍しくて、
あなたのあなた「……お兄ちゃんも熱ある?」
白布「お前にだけは言われたくない」
あなたのあなた「だってだって、お兄ちゃんいつもそんなこと言わないじゃん!この前だって、夜に買い忘れてたもの調達しようとしてたのn________」
私が全部言い終わるのを待たずに、2口目がお兄ちゃんによって押し込まれた。
あなたのあなた「んん………っ、、あつっ……」
白布「食わせてやってるんだから文句言うな。」
あなたのあなた「お兄ちゃんが勝手に押し込んできたんじゃん!」
白布「……ったく」
お兄ちゃんはもう1口分スプーンですくうと、冷ます為にふーふーっと息を吹きかけた。
白布「…ほら、口開けろ。」
あなたのあなた「……ん、」
私も今度は素直に口を開いて、おかゆを食べる。1口目よりも少しは冷めてて食べやすいのに、胸いっぱいに広がるお兄ちゃんの温もりで、なんだか心地よかった。
あなたのあなた「…ごちそうさま。」
お兄ちゃんには悪いけど、さすがに私も全部は食べきれなくて、小鍋には食べかけの卵がゆが残っていた。
あなたのあなた「お兄ちゃんは、夕ご飯食べたの?」
白布「あなたのあなたが作ってくれた麻婆豆腐食うつもりだけど。」
あなたのあなた「え…じゃあ、おかゆを先に作ってくれてたってこと……!?」
お兄ちゃんもただでさえ部活で疲れてるのに…、これじゃあまた迷惑かけ________
白布「迷惑なんて思ってねぇから。」
テレパシーでも使えるのか、この人……
白布「……だから、ちゃんと寝て早く治せ。」
あなたのあなた「うん…」
_____ちゃんと分かってる。私が沈まないように、元気づけるために、いつもより優しく接してくれることも。
お兄ちゃんは、ああ言って励ましてくれたけど、
やっぱり私は迷惑かけてばっかりの、お兄ちゃんのお荷物なんだってことも。
そう言い聞かせるの、慣れてるじゃん…
お兄ちゃんのことは他の誰よりも信頼できる。
……けど、お兄ちゃんですら私は信用しきれない。
だから自分に言い聞かす。失った時に、少しでも心を軽くしていられるように。
白布「じゃあ、俺も食って寝るから。」
立ち上がってドアに向かう後ろ姿を見つめる。
ドアの前で立ち止まると、スっとこっちに振り返って
白布「………おやすみ。」
パタン
……慣れてるはずなのに
最近はどうしてこうも、お兄ちゃんの優しさに触れると、私の決意は揺らいでしまうのだろう。
どうして、その言葉を丸ごと受け入れたいって欲張っちゃうんだろう……
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。