※モブ要素あります。苦手な方はおすすめしません。
季節は春。
俺は親の転勤の都合で、この私立羽不高校に通うこととなった。
田んぼしかないような田舎出身の俺は、東京の私立高校を見て驚愕した。
じんがあっけにとられていると、後ろからポン、と肩を叩かれた。
じんは、親切な男子生徒に別れを告げ、駆け足で職員室へと向かう。
ガラッ
小林先生は中肉中背のイケメンで、女子生徒から人気のありそうな先生だ。
先生のあとをついてしばらく歩いているうちに、1-Aの教室に着いた。
先生はドアを開ける前に、くるっとじんの方に振り返った。
ニヤッとしながら先生は言う。
じんも負けじとニヤッと笑う。
先生は微笑みを浮かべ、また前を向き直し、ドアを開ける。
ガラッ
先生の入室とともに、みな自分の席へと戻る。
先生の後ろをついて教室に入ると、教室内がざわざわし始める。
ざわっ
先生が指さす方を見ると、今朝話しかけてくれた男子生徒がいた。
思わずじんは あっ と声を上げた。
じんは慌てて席に着く。
教科書を机に広げながら隣の席の寺島に話しかける。
そう言うと、ふっと目線を教科書に向けてしまう。
なんだ案外冷めた奴だな、と思い、じんも授業に戻る。
キーンコーンカーンコーン
授業終了のチャイムが鳴り、生徒は一斉にじんの周りに集まる。
マシンガン並みの勢いで質問され、追いつけないじんは苦笑いした。
隣のテオが立ち上がるのに気付き、思わず声をかける。
ガラッ
相変わらずのそっけない態度。
それを見た生徒のひとりが口をとがらせて言う。、
どれも信じがたい話で、顔を歪める。
キーンコーンカーンコーン
休み時間の終了を知らせるチャイムとともに、ドアが開く。
テオが教室に入ってきた。
みなテオの顔を見て驚く。
さきほどまでとは打って変わってしん、と静まり返る。
テオの左頬は赤く腫れていた。
たった数分の間で何があったのか。
みなひそひそと議論し始める。
テオは気にせず、自分の席に着き、教科書を出す。
先生はまだ来ない。
テオは無視する。
じんは ガタ と立ち上がり、テオの腕を引いて教室を出る。
テオは目をまんまるにして、じんにされるがままである。
ずんずんと歩み進め、やがて職員室にたどり着く。
ガラッ
にこりと小林先生が微笑む。
じんは、それなら…と寺島の腕を掴んだ手を離そうとする。
ガッ
すると、寺島が逆にじんの腕を掴んでくる。
じんは突然の行為に驚く。
テオの方へ振り返ると、
テオは今にも泣きそうな顔でじんを見てきた。
すがりついてくるような、困ったような顔で。
じんはとっさになにかを察知し、先生の申し出を断った。
その言葉にテオは安堵したのか、腕を掴む力が少し弱まる。
先生が立ち上がり、3人で保健室に向かう。
テオは保健室に向かう間、ずっとだんまりだった。
ガラッ
ここで、校内放送が流れる。
『小林先生。小林先生。至急、職員室までお戻りください。』
先生は足早に保健室を立ち去る。
返事はしたものの、教室に帰る気にはなれず、テオの隣に黙って座っていた。
見兼ねたテオはようやく口を開く。
再び沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのはテオだった。
その後、保健室の先生が戻り、テオの手当てをしてもらった。
教室に戻ると、クラスのみんなは怯えているような感じだった。
あのテオと過ごしてなにもされてないのかと疑っているようだった。
じんはそれに気付き、さっき話していた3人に向かってぺろっと舌を出して見せた。
それを見た3人は、フッと吹き出し安心していた。
教室に戻ると、相変わらずテオは無愛想になるが、今はさほど気にならなくなった。
態度は気にならなくなったが、逆に保健室で話していた理由について深く興味を持つようになってしまった。
-つづく-
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。