あの日から、アイツはずっと私につきまとってくる。
でも、何か話しかけてくるんじゃなくて、側でぷかぷか浮いて寝てたり、私が移動するとだるそうについてくる程度。
しかも、アイツが言っていたように、私以外の人にアイツの姿は見えていないようだった。
会った時より口が悪くなっている。
それだけは分かった。
かれこれコイツとは、二週間は一緒にいる。
だから、もう結構打ち解けてきている。
うざったい、しつこい…
マイナスな感情が、プラスな感情を上回ることはなかったが、それでも、私はコイツと一緒に居続けた。
コイツがいなくなったら、何もかもが終わりそうで、怖かった。
何でそう思ったのかは…分からないけど。
いつも通りの会話
いつも通りの朝
でも、いつもと違うことが、一つある。
青岸鈴が私たちのグループに入ってきたのだ。
私は別に、嫌だとは思わなかった。
友達が増えることは嬉しいし、鈴とは仲良くできると思っている。
茉莉の大声が響く。
豪快な笑い声が教室を満たす。
私はチラッと茉莉を見る。
私がそう内心イライラしていると、後ろから死神が話しかけてきた。
そう言うと、死神は茉莉のことを指さした。
自分から聞いてきたくせに…
とイライラしつつ、私は奏たちの方に視線を戻す。
私達が会話に戻ろうとすると、後ろから大きな声が聞こえた。
私はあまりのことに驚いてしまった。
奏がハッキリと言った。
その時だった。
ドガッ!
鈍い音がして、奏が床に倒れ込む。
奏の前には、片足を上げて立っている茉莉がいる。
茉莉が、奏を蹴ったのだ。
鈴の目が大きく見開かれる。
そして、みるみるうちに悲しげな表情になっていく。
死神が私の前にサッと手を出す。
そう言うと、死神がキッと茉莉を睨む。
だが、特に変わった様子はない。
言われた通り、私は一歩前に出る。
私は奏の手を取り、振り返らず教室から出て行く。
ドクン…
無言で歩いていく。
気まずいくらい、無言。
静寂を破ったのは、死神だった。
「「キャーーーーーーーーーーーーッ!」」
近くで女子が何人か立ち尽くしている。
あまりに急すぎて、状況が飲み込めていないのだろう。
そう言って、死神はすぐに部屋から出て行ってしまった。
安心するように胸を撫で下ろす取り巻きたちに混じって、私は茉莉に近付いた。
そして、大きく息を吸って、声を出す。
まだ意識が曖昧としているのか、かすれた声で聞き返す。
ずっと寝転がっていたせいなのか、髪もボサボサで、服も寄れている。
茉莉が私をキッと睨む
茉莉の大声が教室中に響く。
案外茉莉は、すんなりとついて来てくれた。
乱暴なことはしたくなかったし、丁度良い。
私は、死神が言った屋上へと、茉莉を連れて行った。
少し怯えた様子で尋ねる茉莉に、私は首を傾げて言う。
茉莉が私に聞き返したのと、ほぼ同時に、後ろで声がした。
茉莉が後ろを振り返る。
そこには、黒い烏みたいなマスクと、黒い布を被った人らしき生物がいた。
いや、生物と言って良いのかも分からない。
死神が茉莉に鎌を突きつける。
茉莉は必死に逃げているが、あの速さの差では、到底逃げられないだろう。
ふと、茉莉が死神の鎌に引き裂かれる光景が脳裏に浮かぶ。
あの日、私と死神が初めて会った日、私はどうしてアイツに殺されなかったんだろう…
もし、私も殺されていたら、あんな風になっていたのだろうか?
そう考えると、震えが止まらなくなる。
止めようとして、ふと気が付いた。
そう言った彼女は、どこか、悲しい目をしていた。
本当は、こんなことしたくないのに、湧き上がる罪悪感を押し殺して、行動しているように見えた。
恐ろしい目に遭わないように、感情を押し殺して、私を殺そうとしたのだとしたら、死神は今頃、何かからにげているのだろうか?
反射的に、出しかけた言葉を引っ込めた。
止めてしまったら、死神がどうなってしまうのか分からない。
私に、他人を無責任に止めることなんてできない。
名前を呼ばれてハッとする。
何をしているんだ、私は。
今、目の前で人が死にそうになっているのだ。
私は、何を考えているんだ。
彼女を助けたところで、死神がどうなるかなんて、まだ分かっていない。
でも、今、彼女を助けなかったら、彼女は死ぬ。
私は、勢いよく死神に飛びついた。
死神は私を引き剥がそうと、ブンブンと身体を振り動かす。
その様子を見た茉莉が、ポケットから何かを出す。
カッターだ。
茉莉は無言でカッターを構え、死神に突進していく。
私の声なんて届いていない。
必死に叫ぶが、それも虚しく、カッターの刃が深く死神の背中に入っていく。
すると、死神はたちまち今までの姿に戻った。
だが、決して傷を痛がったり、もがいたりする様子はなかった。
ただ、無言で突き刺さったカッターを横目に見ていた。
私は気付いてしまった。
刃が刺さったところから、血が出ていない。
そう思ったか否か、カッターがカシャンと音を立てて地面に落ちた。
そして、みるみる内に闇のようなものが死神の背中の傷のところをぐるぐると覆う。
そして、闇が晴れると、傷は愚か、服さえも治っていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。