「あれ?朱里さん?ふふふ、僕を出迎えようとしてくれたんですか?ありがとうございます。寒いので中に入りましょっか!」
「……」
何故だ。何故見つかった?
この人殺しはたった10分前に家を出たんだぞ?もしかして、私にGPSでもついているのか?
色々と考えた結果、今回は偶然こいつが帰ってきただけだと、朱里は考えるようにした。
なんて言う解決を1人で導き出し顔を上げるとあの人殺しの顔が私を覗き込んでいた。
「朱里さん、肉じゃが食べたいんですよね?
僕作ったので食べてください。」
「要らない、お腹なんかすいてない。お願いだから近寄らないで!」
「じゃあ、置いておくので食べてくださいね。」
そう言って凛は部屋を出ていく。
あぁ、そういえば昨日の夜から何も食べてなかった。ではなく、なんで私が肉じゃが好きなこと知ってるんだ?おかしな点はそれだけじゃない。そもそもここにいると、時間の経過がおかしい。あいつが帰ってきてから煮込みものをするほど時間があっただろうか。私が来る前に料理はすませていた?いや、こんないい匂いをあんなに完璧に隠せるのか?こんな彼女の思考に、出汁の靄がかかる。靄はどんどん膨らむばかりである。お腹空いた。でも、人殺しの出してきたものなんて。でも、でも、でも……
「あ、食べてくれたんですね!お口にあいました?」
「……」
完敗だ。美味しいなんていう言葉では形容できない。彼女は気づいた時には汁まで残さずに飲み干していた。悔しさを胸に残していつの間にか彼女は深い眠りへと落ちていった。
その夜雪は降らなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!