第5話

透明
34
2019/01/01 04:31
ポチャン、ポチャン
朱里は自分に容赦なく降り注ぐ朝日と、雨粒の音で目を覚ます。
「おはよう私。」
「おはようございます、朱里さん。」
驚き彼女が振り向くとそこには1人の美青年。
「誰?嫌だ、近づかないでよ!」
「朱里さん、僕ですよ。」
「あなたみたいな人は知らないわ!近寄らずに要件を言いなさい!」
「あなたには今から僕の人質になってもらいます。」
「人質…?あなた何者なの?」
「私の名前は凛。心配しないでください。ただの通りすがりの殺人鬼ですよ。」
凛と名乗る青年はそう言いながら私の首を爪でなぞる。恐怖で声は出ない。
「ふふふ。綺麗な涙です。透き通っていて、何も反射させない。」
朱里は悔しくて、凛を睨む。
「まぁまぁ、これから2人で暮らすんですから、仲良くしてくださいね?」
そう言って凛は私の首から指を離し、くるりと後ろへ向き直り、そのまま部屋を出ていった。
1人取り残された朱里は何故か冷静だった。
涙を乱暴に拭い、状況確認しようと部屋を見回す。奇妙な部屋だった。普通の部屋なのに、天井がなく、変わりに部屋の上へと続くはしごがかけてある。窓はない。しかしドアはある。家具と言えばベッドがひとつ、それにキッチンがあるだけ。自分の体の状態を確かめる。服は乱れていないし、手錠をされている訳でもない。体に触れられた形跡はないし自由なのだ。一通り状況を確認し、逃げ出せると感じた朱里は急いで部屋の扉を開けた。

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